三十九 colorful days

 長年鍛冶屋を務めてきたアレン爺さんが、とうとう引退することになった。


 原因は、この国を巻き込んだ戦争だった。40年以上国に銃を作り続けてきたアレンだったが、自分の作った物が戦争に使われることに耐えられなくなったのだ。


「もう、ワシの子供達が血で染まるのを見とうない。ワシは辞めさせてもらう」

「何を仰るんですアレンさん。今こそ貴方の銃が必要なんですよ!」


 これに慌てふためいたのが、国の政治家だった。アレンの作る銃は中々の代物だと国の間でも有名で、政治家たちは今回の戦争でも彼の銃を頼りにしていたのだ。開戦後の中途半端なこんな時に、武器の供給が無くなってしまうなど、彼らにとっては戦局を揺るがしかねない一大事だった。


「お願いしますアレンさん!貴方の銃がなければ、今度は私達の子供が血で染まってしまうことになりますよ!」

「ダメだ!たとえ脅されても、ワシは絶対にやらん!」


 元々頑固なアレン爺さんのことだ。政治家達は小高い丘の上で門前払を食らって、途方に暮れるしかなかった。




「ワシはもう二度と人を傷つけるようなものは作らんぞ」


 さて、アレンはとうとう先祖代々続いた鍛冶屋をたたんでしまった。かまどを壊し、そこを更地にして花畑を作った。武器を捨て、これからは残りの人生で花を咲かせよう。そう決心した。チューリップ、向日葵、パンジー、水仙…。長い間、毎日のように黒い煙が上がっていたアレンの家の周りには、やがて色鮮やかな花が咲くようになった。


「お爺さん、お花一つくださいな」


 元々頑固なアレン爺さんのことだ。一から始めた花作りにも、それはそれはこだわった。いつしか小高い丘の上には、アレンの咲かせた花を求めて国中の人が集まってきた。彼らの幸せそうな笑顔を見て、アレンは心から鍛冶屋を辞めて良かったと思った。

 銃作りに誇りを持っていた。だがそれ以上に、鉛色だったその日々を、手放す勇気を持てたことが誇らしかった。血を流すための道具ではなく、人々を笑顔にできる物作りこそ、アレンが長年求めていた仕事だったのだ。

 小さな女の子から代金を受け取りながら、アレンは穏やかに尋ねた。


「ありがとう。ワシの作った花はどうかね?」

「ええ。とっても」

 少女は一輪のバラを受け取ると、アレンにとびっきりの笑顔を見せた。


「このトゲトゲが、パパを痛めつけるのに丁度いいって!ママも大喜びなの!」

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