二十 ニュース
「ヤァ、起こしてすまない。そっちはどう?」
ある日の晩の話である。残業を終えて帰宅したAさんの元に、見知らぬ番号から電話がかかってきた。不審に思いながらも出てみると、相手は地元に残したAさんの父であった。
「あぁ、大丈夫だ。こっちは無事だったから」
「何の話?」
Aさんは戸惑った。父の重たい口調に、よもやの不安が過ぎった。父は地元で何十年も、会社員として働いていた。
「どうしたの? 家で何かあった?」
「とにかく僕は平気だ。詳しくはニュースを見てくれ」
「ニュース?」
詳しくは後で話す、その一点張りだった。
「お母さんは?」
「大丈夫、大丈夫だ。少し眠らなくちゃ……またかけるよ」
そう言って通話は切れた。Aさんは急いでニュースをつけた。特段気になるようなニュースはなかった。何より父が脱線事故で亡くなったのは、もう八年も前の事だった。
それ以来、Aさんの元には毎年、同じ日、同じ時間に電話がかかってくると言う。
要件は大概、自分は大丈夫だと言った内容だが、たまに腰が痛いとか、お腹が痛いとか知らせて来て、Aさんや家族が病院で検査を受けると、亡き父が痛いと言っていた箇所に異常が見つかったりするのだとか。
もしかしたら毎年、家族の様子を見にきているのかもしれません。Aさんはそう苦笑した。
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