百物語

てこ/ひかり

一 隠れる前と隠れた後で

 これは会社の同僚のMさんから聞いた話です。


 Mさんは小学生の頃、かくれんぼをしていて、怖い目に遭ったのだとか。


 放課後。

Mさんたちはいつも仲の良い5〜6人で集まって、近所の公園でかくれんぼをしていました。最初はMさんが鬼です。


 大きな木の上。

 ベンチの裏。

 滑り台の後ろ。


 色々なところに隠れている友だちを、Mさんは熱心に見つけて行きました。公園といっても、それほど広くもなく、隠れられる場所は大体決まっていたのです。交代交代で鬼になって、何度もかくれんぼを繰り返しました。そして、Mさんがその日、数度目の鬼になった時のことです。ふとMさんは、あることに気がつきました。


 見つけた友だちが……なんだか妙に違う。


 最初は小さな違和感でした。

 だけど、何回も見つけていくうちに、Mさんの違和感はどんどん大きくなっていきました。

 

 耳の形。

 鼻の大きさ。

 目の位置。


 隠れる前と、隠れた後で、ちょっとずつ、ちょっとずつ友だちの顔が変わっているのです。これにはMさんも驚きました。夕日が沈む頃には、『石川くん』という友だちが『自分は岩川だ』と言い出して、口調もぶっきらぼうになり、何だか性格まで変わったみたいでした。Mさんはとうとう怖くなって逃げ出しました。


 次の日。

Mさんが学校に行くと、教室には何事もなかったかのように、全然知らない顔がずらりと並んでいました。教室を間違えたかと思った、とその時Mさんは思ったそうです。だけど教室は変わっていません。変わったのは友だちの顔や名前、性格などでした。Mさんは先生や親にそのことを訴えましたが、彼らはMさんの話を信じなかったそうです。


「子供の顔が変わってたら、流石に気づくよ」


 そう言って笑い、誰も取り合いませんでした。

周りは誰も彼も、変化に気付くこともなく、平然としていたそうです。

違和感を感じていたのはMさんだけでした。

そんなはずはないと思って、「石川くん!」と声をかけると、岩川くんが不思議そうに首をかしげました。しばらくMさんは、まるで自分が知らない世界に一人取り残されたみたいな、恐ろしさと寂しさを感じていたのだと言います。


 それから歳をとるに連れ、だんだんとかくれんぼもしなくなり、Mさんにとっても今ではそれはおぼろげな記憶になったとか。


「当時の写真とか動画とか見返したけど、変わる前の顔がどこにもないんだ。だからやっぱり僕の記憶違いか、だけど……」


 Mさんは笑いながら私に話してくれました。


「……だけど最近、変なニュースを耳にしてね。ウチの地元で、地質調査の際に、人間の耳やら鼻の骨が大量に見つかったって言うんだよね。まだ犯人は捕まってないらしいけど、アレって一体なんなんだろうなあ」

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