静と動
シヨゥ
第1話
『休むからこそ動いているときに輝ける。静あっての動。そのまた反対に動いたからこそ休まなければならない。動あっての静。繰り返すことで調和は保たれる』
『なるほど。静と動の繰り返しで技にキレを出しているんですね』
『そうだ。ただこれは武術だけの話じゃない』
『と、いいますと?』
『休養するから働ける。静あっての動。またその反対に働いたからこそ休まなければならない。動あっての静。繰り返すことで調和は保たれ、健康に暮らせるというものだ』
『なるほど。つまり我武者羅に働くしかない今の日本人は?』
『調和が保たれていない。不健康だ。そう思う』
『なるほど。改善するためにはどうしたらいいと思いますか?』
『そうだな。考え方は武術と同じだと思う』
『といいますと?』
『武術は最小限の動きで最大限の効果を発揮するために技を磨く。つまりは質の向上だ。これと同じように最小限の動きで最大限の効果を発揮する能力を高めることに労働者は注力すべきだと考える。そして雇用者もそれを奨励するべきだ」』
『なるほど。でも武術の世界でも先生のような達人になるのはほんの一握りではないですか?』
『達人にはまだほど遠いと思っているが、それは置いておこう。別に達人の域に全員が達しなければならないわけじゃない。程度で言ったら道場の師範代ぐらいでも構わないだろう。重要なのは時間で解決するのではなく、技能で解決するようになること。この一点なんだ』
『なるほど。技を磨かれてきた先生だからこそ言える重い一言ですね。皆さんも参考になさってみてはいかがでしょうか。本日はお時間をいただきありがとうございました』
『ありがとうございました」』
テレビから流れていたトークショーが終わる。それを食い入るように見ていた息子がすっくと立ちあがった。
「どうした?」
「勉強する。ぼくもあの人みたいになる」
そう言って部屋へと走っていく。残されたゲーム機からは軽妙な曲が流れていた。遊びよりも学びにシフトした点で父親としてはうれしい限り。それでも遊ぶ時間は今にしかないだぞと言いたい気持ちもある。とりあえず今日のところは勉強を頑張ってもらって、また遊びに戻ってきたらそれはそれで。感化されやすい年頃の子供を持つ親としてはそれぐらいの心持がいいのだと思う。
静と動 シヨゥ @Shiyoxu
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