第57話 鍛冶師ドルトン
「そうじゃ、お礼代わりに今度お主の依頼を無料で引き受けてやるぞ」
「えっ!?いいんですか?」
「うむ、お主のお陰で無事にミスリル鉱石が手に入ったからな」
「あ、ありがとうございます。でも、僕だけなんて悪い気がするので……」
「何を言っておる、実際、お主がおらんかったらミスリル鉱石は手に入る事はなかった。話を聞く限りではどうやらお主が一番活躍したそうじゃしな。どうしても他の者が気になるというのであればこういうのはどうじゃ?お主が素材を調達してくれるのであれば儂は無償で依頼を引き受ける」
「素材の調達、ですか?」
ドルトンの言葉にイチは不思議に思うと、彼の客の中には貴重な魔法金属を持ち込んで仕事を依頼する人間も多く、そちらの方がドルトンとしても素材を調達する手間が省けるので助かるらしい。
「お主が素材を調達し、その一部を儂に渡してくれるのであれば今後はお主の依頼を無償で引き受けよう。つまり、特別契約を結ぶというわけじゃ」
「でも、それだとドルトンさんに負担が掛かるんじゃ……」
「ははは、そんな事は気にしなくていい。今回の件は本当に助かったぞ、この街の領主が急にミスリルで女神像を作ってくれと無茶な注文をしてきてな……この街に住んでいる以上、領主の我儘は断れないからな。本当に助かったぞ」
「はあっ……」
ミスリル鉱石を運び出してくれたイチはドルトンからすれば恩人であり、その恩人の役に立てるのであれば特別契約も苦ではないらしい。イチは素材の調達という言葉を考え、もしも魔法金属の素材となる鉱石を持ち込めば魔法金属製の武器を作ってくれるのかと考える。
(戦闘の度に短剣を買い直すのも面倒だしな……この際、魔法金属製の武器を作ってもらうのもいいかも)
先の盗賊との戦闘でもイチは短剣を利用したが、この時にいくつかの短剣を失ってしまう。逃げる際中に盗賊の牽制のためにかなりの数の短剣を撃ち込み、結局は全て回収する暇がなかった。
回収できた短剣の方も刃毀れが酷く、やはり今の戦い方では武器に大きな負担をかけてしまう。そう考えたイチは今後の事を考え、ドルトンの提案を有難く受け入れる事にした。
「分かりました、それじゃあ素材を手に入れる機会があったらお願いしますね」
「うむ、期待して待っておるぞ……ああ、素材と言えばこの街が管理する鉱山の採掘場の事は知っておるか?」
「え?採掘場?」
ドルトンが思い出したように採掘場の話をすると、ここでイチはギルドマスターの言葉を思い出す。現在、ニイノが管理している採掘場は魔物が占拠しており、一般人は近づけない状態だという。
「そういえば採掘場に魔物が現れて採掘ができなくなったと聞いてますけど……どうしてニイノの冒険者に討伐させないんですか?」
「討伐した所でどうせまた魔物が湧き出るからのう……魔法鉱石が採れるような場所には魔物は寄り付きやすい。先代の領主は採掘場に魔物が現れる度に冒険者に依頼して採掘場の魔物の討伐を任せていたが、新しい領主はケチでな。自分の事にしか金を使わんから、冒険者にも依頼せんのだ。どうせ魔物を倒してもまた魔物が出てくると言い張ってな」
「えっ……それはちょっと残念な人ですね」
「全くじゃ、ミスリルの女神像なんか儂に作らせるぐらいならば冒険者を派遣しろ、あの馬鹿領主め!!」
最近になってニイノの領主は変わったらしく、前の領主は採掘場に魔物が現れた時はすぐに冒険者に対処させていたが、今回の領主は冒険者に金を出して依頼するのを惜しみ、冒険者達も金を受け取れないのであれば危険な魔物の討伐など行えない。
領主のせいでニイノで流通している鉱石の価格が跳ね上がっており、鍛冶師たちは困り果てていた。今回の依頼もドルトンは別の街に暮らす弟に頼み、急遽不足分のミスリル鉱石を運んでもらった。しかし、何時までもこのような状況が続くのならばドルトンも店を畳まなければならない事を愚痴る。
「前の領主は本当に優しいお方だった……だが、新しい領主は駄目じゃな。自分だけが金を稼ぐ事しか考えておらん、その癖に自分の趣味には金を費やす事も厭わん馬鹿者じゃ」
「そ、それは大変ですね……」
「あの採掘場に魔物がいなくなればこの街もマシになるのだが……魔物の数が多すぎて相当数の冒険者を派遣しなければどうしようもできんらしい」
「へえっ……ちなみに鉱山は何処にあるんですか?」
「む?気になるのか?教えても構わんが……1人で向かおうとは考えん方がいいぞ。鉱山の場所は――」
――イチはドルトンから詳しく鉱山の場所と採掘場の位置を聞き出す。その後、イチは宿屋へ戻ると、怪我の治療を終えたブランたちと合流し、その後のゴウケン達の処遇を聞く。
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