第33話 銅級冒険者
――試験を終えた後、イチはギルドマスターの部屋へと呼び出される。今回の試験にはイチしか参加しておらず、ハジメノの冒険者ギルドを管理するギルドマスターはドワーフであり、外見は身長は120センチ程度しか存在しない中年の男性だった。
「まずは合格おめでとう。これで晴れてお主は銅級冒険者じゃ」
「わあっ……あ、ありがとうございます!!」
イチはギルドマスターから直々に銅級冒険者の証であるバッジを渡され、嬉しそうに受け取る。この1年間、イチはこのバッジを受け取るために頑張ってきた。
バッジを受け取って嬉しそうな表情を浮かべるイチに対してギルドマスターは朗らかな笑みを浮かべるが、すぐに表情を引き締め直してイチと向かい合う。彼の雰囲気が変わった事にイチは気付き、緊張しながらも向かい合う。
「さて……今回の試験に関していくつか聞きたいことがある。実技試験の時、お主が見せてくれた技に関してだが……あれは収納魔法か?」
「えっ!?」
「カマセが殴り掛かってきた際、奴の攻撃を受ける際にお主の前に黒い渦のような物が現れて攻撃を阻んだ。儂の目にはしっかりと見えていたぞ」
「そ、そうだったんですか……」
カマセというのがイチが試験で戦った冒険者の名前であり、彼との試合の際にイチは確かに黒渦を発動させて彼の攻撃を防いだ。その光景をギルドマスターは見逃さず、イチに問い質す。
(黒渦を発動させたのは一瞬だったのに……流石はギルドマスター、元黄金級冒険者は伊達じゃない)
ハジメノのギルドマスターは年老いたとはいえ、元は黄金級まで上り詰めた冒険者である事は有名な話であり、凄まじい動体視力でイチの行動を全て読み取っていたらしい。
ここで下手に誤魔化す事は出来ないと判断したイチは黒渦を利用した「反発」の原理を説明し、彼に試合の時に何をしたのかを話す。
「なるほどのう、収納魔法を応用すれば攻撃を跳ね返す事が出来るのか。それは面白いが、武器などで攻撃された場合はどうなるのじゃ?」
「あ、一応は試した事もあるんですけど……攻撃を跳ね返す事が出来るのは生身の拳だけでした」
ギルドマスターの質問に対し、まだ収納魔法で反撃の方法を思いついたばかりの頃、イチも色々と実験した事を話す。
――収納魔法を発動した時に誕生する「
しかし、黒渦が攻撃を跳ね返す事が出来るのはあくまでも生物限定であり、普通の剣や槍など攻撃された場合は跳ね返す事は出来ない。但し、それらの武器の場合は異空間に取り込む事が出来る。
だが、黒渦はあくまでも渦の中央の部分からしか物体を収納できず、周橋の渦巻の部分を攻撃された場合は呆気なく消え去ってしまう事が判明していた。また、黒渦の弱点は強い光であるため、光を放つ武器などで攻撃された場合は黒渦は掻き消されてしまう。
「なるほど、どんな攻撃も跳ね返すわけではないのか。しかし、盾役としては役に立ちそうじゃな」
「はい、それと防御だけじゃなくて攻撃にも利用できます」
「ほう」
この時にイチは異空間内に事前に武器を取り込み、それらを黒渦から射出する方法を伝える。これらの収納魔法の「反発」を利用した攻撃法と防御法を伝えると、ギルドマスターは納得したようにうなずいた。
「よく分かった。お主が戦える力を持っている事は理解した……ならばこれからも冒険者活動を頑張ってくれ」
「ありがとうございます!!」
「それと……実はお主に頼みたい仕事があってな」
「え?」
話を聞き終えたギルドマスターは一枚の羊皮紙を取り出し、その内容を確認すると収納魔術師であるイチ向けの依頼だった。依頼人はギルドマスターであり、彼は別の街の知り合いの鍛冶師に荷物を送り届けるように頼む。
「ここから馬車で3日ほど移動した場所にニイノという街がある事は知っておるな?実は最近、ニイノの近くの採掘場に魔物が住み着いたらしくてな。そのせいでニイノの鍛冶師が困っておるのだ」
「魔物、ですか?」
「うむ、ニイノには儂の弟が働いておるのだが、その弟からどうしてもミスリルを分けてほしいと頼まれてな。ちなみにお主はミスリルを知っているか?」
「魔法金属のミスリルですよね?流石に知ってますよ」
魔法金属とは魔法耐性が高い金属の事であり、普通の金属よりも希少で価値が高い。ミスリルはヒトノ王国内で取り扱われている魔法金属の中でも最も流通されており、ミスリル鉱石と呼ばれる特殊な鉱石を加工しなければ作り出せない。
ニイノにいるギルドマスターの弟によるとミスリル鉱石が採れた採掘場に魔物が現れるようになり、現在は冒険者以外が立ち入る事が禁止されていた。しかし、ギルドマスターの弟はある貴族からミスリル製の装飾品を作り出す様に依頼され、そのために彼はミスリル鉱石を欲しているという。
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