第7話 雑用仕事

――家族にも頼れず、路銀も残っていないイチが生き抜くためには働く必要があった。幸い、事情を聞いてくれた司祭が色々と便宜を図ってくれた事で冒険者として働けるようになった。


通常の場合、冒険者になるためには試験などを受ける必要があるが、この国では魔術師の場合は無条件で冒険者になれる法律が存在する。魔術師というだけで優遇されるのは冒険者稼業において魔術師は一番に人気の誇る人材だからである。


冒険者は基本的には魔物と呼ばれる生物の討伐や捕獲を行い、この魔物という生物は通常の動物とは異なる進化を遂げた生物である。それらに対抗するために作り出されたのが冒険者という職業でもあった。


在籍している冒険者の殆どは戦闘向けの職業の人間であり、特に魔術師などの魔法が扱える者は優遇されていた。理由としては彼等が扱う魔法は魔物との戦闘では最も役立つからであり、このお陰で魔術師の適正がある人間は未成年者でも冒険者になれた。


但し、いくらなんでも何の知識もない状態で冒険者になると色々と問題があるため、試験の代わりに定期的に講習を受けて魔物に関する知識や対処法を学ぶ義務は存在する。この講習は最初の1年の間は定期的に行われ、何の理由もなく講習に欠席すると冒険者資格を剥奪される。




村から抜け出したイチには帰る場所もなく、生きていくには冒険者として働かなければならない。そこで彼は冒険者になり、仕事を行いながらも冒険者としての振る舞いを講習で受けて学びながら生活を送る。


当然、生活費を稼ぐために仕事を行わなければならず、未成年者の彼が受けられる仕事は雑用の仕事ばかりだった。ちなみに仕事の斡旋を行うのは冒険者ギルドという冒険者を管理する組織であり、イチは毎日ギルドに訪れては雑用の仕事を言い渡され、生活費を稼ぐために毎日働いていた。



「おう、坊主!!今日も掃除が大変そうだな!!」

「あ、いえ……これも仕事ですから」



イチは冒険者になった次の日から冒険者ギルドの建物の掃除を行い、朝から訪れて昼間での間に掃除を行う。ギルドの掃除に関してはギルド側が発行した依頼であり、報酬を支払うのはギルドである。


ちなみに掃除の内容は床掃除や窓拭き、他にも便所掃除などを任せられる。流石にイチだけではギルド内の建物の掃除は行えず、他のギルド職員も行う。但し、冒険者の間ではこの手の雑用仕事は金に困った見習い冒険者でも滅多にやらず、彼等からすれば雑用の仕事など冒険者のやる事ではないという。



「ちっ、おいまだここが汚れてるじゃないか!!しっかりと掃除しろ!!」

「す、すいません!!」

「おい、止めろよ……子供相手に嫌がらせなんかするなよ」

「うるせえっ……こんなガキが魔術師だからって理由で試験も無しに俺達と同じ冒険者なんだぞ?こっちがどれだけ苦労して冒険者になったと思ってるんだ……」

「お前の場合は筆記試験が駄目過ぎて落ちただけだろうが。子供に当たんなよ、馬鹿」

「う、うるせえっ!!」

「…………」



態度の悪い冒険者がイチがまだ掃除していない場所を示し、他の仲間になだめられる。しかし、魔術師の適正があるからという理由で試験も受けずに冒険者として認められたイチに不満を抱く者は少なからず存在する。


魔術師といってもイチの場合は攻撃魔法を扱える魔術師ではなく、それにも関わらずにこの国の制度で彼は試験も受けずに冒険者になった。勿論だが仕事の合間にイチは講習を受けており、試験を受けて居なくともちゃんと冒険者に関する知識も教わっているし、講習を全て受け終えるまではイチは自分で仕事を選ぶ事も出来ない。


しかし、苦労して試験を突破して冒険者になった人間からすれば、子供の癖に魔術師の適正があるだけで冒険者に昇格したイチに不満を抱く者もいる。



(我慢するんだ……今は真面目に仕事をして生活費を稼がないと)



だが、当のイチにとっても現在の仕事は決して楽な事ではなく、休み暇もなく仕事を送る日々を送る。未成年者のイチでは家を借りる事も出来ず、司祭の知り合いの宿屋に暮らしているが、その宿代を稼ぐためにイチは1日も休む事は許されず、毎日掃除と講習を受けていた。


この世界の通貨の基準は鉄貨(鉄製の通貨)、銅貨、銀貨、金貨の4つの硬貨と、これらの下に紙幣が数種類存在する。硬貨の方が紙幣よりも価値は高く、安い宿でも1日の宿泊料として銅貨2枚はかかる。しかもこれに朝昼晩の食事代を含めると銅貨4枚は稼がなければならない。


午前中の雑用の仕事で稼げる日銭は銅貨5枚であり、早朝から訪れて昼間で働かされるにしては給料が少ない。しかし、その代わりに昼食はギルド側用意してくれ、昼休憩の間に食事を済ませると午後は講習を2時間ほど受ける。


イチが自由にできる時間は午後から夜の間であり、この時間の殆どもイチは勉強や別の仕事に時間を費やす。12才の子供が送るにはかなりきつい生活だが、それでもイチは弱音を吐けない。



(あんな家族の元に戻るぐらいならここでの生活の方がマシだ……!!)



自分を厄介払いに追い払おうとした家族の事を思い出すとイチは我慢ならず、ここでの生活の方がまだマシだと思い込み、仕事と勉強に励む。辛い生活ではあるが、誰の世話にもならず生きていけるという実感はあり、やりがいはあった。そんな生活を送り始めて間もなく1年が経過しようとしており、既にイチは13才を迎えていた。

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