短編作品集(ラブコメ)

関口 ジュリエッタ

 短編作品1 超人妹 キララ

 日が徐々に暮れ淡い橙色に染まる頃。母親が急な用事のために外出することになり、妹の面倒を見ることになった。

 ほんとは友達とオンライン対戦ゲームをプレイするはずだったのだが、可愛い妹のため、兄である三日月恢みかづきかいは友人との遊びを断り全身全霊に妹のキララを面倒を見ることにした。

 三日月恢。高校二年生で高身長、学力、運動力共に優秀であるそこそこイケメンの少年だが、少しシスコンが強いところもある男子高校生だ。

 妹キララは生後五ヶ月の生まれたばかりの赤ん坊で恢との年の差が十六歳も違い、家族みんながキララのことを溺愛できあいしている。


 恢の友人 で何人かは妹がいるが兄妹で仲が良いのはあまりいない。

 年齢が大幅に違うため、兄に対しての悪口も言わないし、生意気なところとかもない。むしろこの小さい体型で微笑む姿を見ると身体の芯からとてつもない癒やしのエネルギーが隅々まで伝わり学校での疲れが一瞬に吹き飛んでしまう。


 ピンク色の熊の形をしたベビー服に包まれたもちもち肌のキララを抱き上げて全力であやす。


「キララは可愛いな~、世界一――いや宇宙一だな」

「アウ、アウ、アウウウ」

「そうかそうか」


 キララのほっぺに自分のほっぺをこすりつけてスリスリする。


 幸せの一時を送っている時に恢とキララに悲劇が起こった。


 ドカーン。


 何か堅い物を破壊した猛烈もうれつな音が部屋中に響き渡る。


「なんだ!?」


 急いで音のする方へ向かうと、そこにいたのは頭のてっぺんから下まで全身黒で覆われた人物が玄関のドアを蹴破りこちらに向かってきた。


 恢の脳裏に強盗だと発した瞬間、急いでキララを抱いたままリビングに掛けだした。


「おい! お前ら。そこにいるガキを捕らえろ」


 ドスのきいた声を発する人物が四人の強盗犯に命令すると一斉に恢の方に向かってくる。

 さすがに自宅の狭い空間で恢は直ぐに四人の強盗犯に捕らえられてしまう。


 一人の強盗にキララを奪い取られ、恢はもう一人の強盗に縄で身体をグルグル巻きに縛られると思ったら、何故か亀甲縛りで縛られた。


「どうだ亀甲縛りの刑は。俺はな昔、高校のあだ名がと呼ばれていたんだ」


 お腹にかなりの脂肪がある亀甲縛りの得意な強盗に恢はドン引きしてしまう。

 高校のあだ名が『亀甲縛りのテル』とは自慢するようなあだ名ではないはず。むしろ、いじめられっ子に付けられたあだ名だと勘違いしてしまう恢であった。


「この俺をどうする気だ。何が目的だ」


 ほんとはあだ名のことで突っ込みを入れたいのだが、相手は凶悪な強盗なため、大人しく要件を尋ねてみた。


「お前の父親に因縁があってな。てめぇの父親の自宅に侵入して有り金などを全部盗むつまりだったんだ」


 そう告げたこの痩せ型の強盗にも恢は恐怖よりも偏見な眼差しで見てしまう、何故ならこの強盗だけ。いわゆるフル○ン。


「……なんでパンツを履いていないんだ?」


 思わず痩せ型のフル○ン強盗に訊いてしまったが、強盗は気持ちの悪い笑みを浮かべて語り出した。


「身軽だからだ」

「…………ヴェッ」


 その一言で恢はもの凄い吐き気を伴った。

 他二人もストッキングを顔に被った強盗や体臭がもの凄く臭い強盗などを見て恢は強盗ではなくただの変態集団だと思った。

 気持ちの悪い考えを抱いていると強盗のリーダーらしき人物がこちらに近づいてくる。

 体格が良く、見る限りリーダー格は変人には見えない。


「さあ、お前と赤ん坊には人質になってもらい身代金をがっぽりもらうとするぜ」

「親父が何をしたのかわからないが、俺やキララは関係ないだろっ!」

「何を言っているんだ。お前らを人質にすればてめぇの親父に精神的なダメージを負わせることが出来るだろ」


 そうとうな恨みをこの五人は抱いているんだ、と恢は思った。

 恢の父親は会社を経営してるが、人に恨まれるような行為はするはずないし、むしろ社員達からは尊敬の目を向けられるほどの人物なのだ。


「お前達が恨みを持っている人物は本当に俺の親父なのか? 俺の親父は人から恨まれるようなことはしていないぞ」

「何を言っているんだ、間違いなく貴様の父親、三日月京史郎みかづききょうしろうだ」


 間違いなく恢の父親の名前だった。だが、疑問に思うどうして父親がこの変態に恨みを買われるようなことをされなくちゃいけないんだ。


「俺の親父はあんたらに一体どんなことをしたんだ?」

「俺はお前の父親が経営していた株式会社スカイ建築に務めていたんだ。だが会社のPCに誤ってウィルスを侵入させた罪で俺たち五人はお前の父親の命令で会社をクビにさせられたんだ」

「だとしたらウィルス侵入させた理由はなんだ? もし、誤って起こしたことならちゃんと説明すれば親父だってクビを取り消しにしてくれる」


「何度も弁解したが無理だったんだ。俺たち五人が一緒にを見た原因でウィルスを侵入させた事にかなりのご立腹で話なんか聞いてもくれやしなかったんだ」


 クビなった内容を聞いた恢は唖然としてしまう、どう考えてもこの五人が悪い。クビになるのも当然だ。


「それはあんたらが悪い! なに人の会社でエロサイト見てるんだよ! 仕事しろボケェ!」

「なんだと!」


 ついつい恢はリーダー格である強盗に暴言吐いてしまった。

 すると、キレた強盗のリーダーはポケットから刃渡り十㎝以上のサバイバルナイフ出してきた。

 恢は身体を震えて言葉が出ない。


「待ってくれ! 悪口を言って悪かったから刃物をしまってくれ!」

「貴様はもうゆるさん! 人質は赤ん坊だけで十分だ。死ね!」


 刃物を大きく振りかざしたとき、恢はとっさに目をつぶってしまった。が、一向にナイフが恢の身体に刃物で切られる感触がかんじなかった。

 恢は恐る恐る目を開けると衝撃な光景を目の辺りにする。

 刃物の先は恢の頬まで近づき、あと数ミリのところで止まっていたのだ。

 いや、止まっていたではなく何らかな影響で強制的に止められているのほうが正しい。


「アウ、アウ、ブゥゥゥ!」


 キララが怒った表情で両手を空にかざして声を上げていた。


「どうして……動かないんだ……」

(ひょっとして……キララが俺を助けてくれたのか!?)


 強盗のリーダーが身体を震わせながら額に脂汗を流している。


「ア~イ」


 キララのかけ声と同時に手に持っていた刃物が勢いよく強盗のリーダーの手から離れ、その刃物が勢いよくフル○ン強盗の大事な下半身に目掛けて突き刺さってしまう。

 悲惨な光景を目撃した強盗達と恢も含めて悶絶してしまう。

 フル○ン強盗はそのまま勢いよく倒れてその場で力尽きてしまった。

 キララを抱いていた変態タイツの強盗は、キララを恐れておもいっきり壁に向かって投げつけた。


「キララッ!」


 大切な妹のキララが壁に激突して大けがでも負ったら大変だとおもい、身体を無理に動かそうと試みるが、きつく縛られた縄のせいで身動きができなかった。

 だが、また想像もできない事を目撃してしまう。

 壁にぶつかりそうになったキララがなんと空中で止まっているのだ。

 四人の強盗と恢はあまりの衝撃な現象に目が飛び出しそうになるくらい驚く。

 投げ飛ばされたキララが空中で止まっている、――正確には浮いているのほうが正しい。


「なんだこのガキッ!」


 亀甲縛りの得意な強盗とタイツの変態強盗二人が空中で浮遊しているキララに向かって突撃する。が突然ピタッと止まった。


「「動けねえ……」」


 金縛りみたいな状態に二人はなると、キッチンにあったフライパンが急に二人の強盗の頭部にもの凄い勢いで直撃していた。

 二人は勢いよく転げ落ちあまりの苦痛に悶絶する。

 

「ならこの俺が」


 体臭がとてつもなく匂う強盗がキララに向かって飛びついた。

 さすがのキララも臭さには我慢できなく、あっという間に捕らえられてしまう。


「捕まえたぜ、リーダー!」

「よし、そのまま殺せ」

「了解」


 体臭の強い強盗がポケットから鋭利のナイフを取り出し、キララに向かって突きつけた。


「やめろ! 妹には手を出すな!」

「うるさい! あんな馬鹿げた力を持ったガキを野放しにできるか!」


 大切な妹が目の前で殺されるのは見たくない。

 恢は無理矢理でも縄を解こうとしても、きつく縛られているため解くことが出来ない。それでも恢は身体を左右に動かしたりして暴れ回った。


「ドタバタするな!」

「うっ!」


 強盗のリーダーに頭をおもいっきり叩かれてしまう、もうダメかと思ったそのとき、恢の脳内で可愛らしい声がささやきだした。


(お兄ちゃん。耳をふさいで)


 突然腕をキツく縛られていた縄が緩くなり、腕がすんなりと解け、素早く恢は手を耳に乗せて耳を塞いだ。


〈ヴァアアアアアアア!!〉


 もの凄い悲鳴を上げたキララに恢を除いて怯んでしまう。

 特に近くにいた体臭のキツい強盗は間近にいたせいで耳の鼓膜が破れ、そのまま気を失い、床に倒れてしまう。

 キララも一緒に床に倒れてしまうが、特殊な力で倒れたときの衝撃を弱めて怪我を防いだ。


「なんなんだこのガキはっ!」


 リーダー格の強盗は、キララに目線を向けている隙に恢は素早く縄をほどき亀甲縛りの得意な強盗のポケットから自分のスマホを回収し、素早く警察に通報をした。

 気づいたリーダー格の強盗は警察に捕まえられたくないので、急いでこの場から逃走しリビングから飛び出していく。

 急いでキララを抱き上げて恐る恐るリビングの中から玄関の方に顔をのぞいてみると、壊れていたはずのドアが綺麗に修復されていた。

 強盗は必死にドアノブを握って玄関の扉を開けようとするが一向に開けることができない、これもキララの特殊な力のせいだと思った。

 こちらに振り向き襲いかかってきた強盗を見た恢は後ずさりした途端、勢いよくリビングのドアが閉まり強盗の攻撃から身を防いだ。無論これも妹のキララのおかげだ。


 それからしばらくして警察が恢のいる自宅に侵入し気絶した強盗四人とリーダー格を取り押さえて無事、事件が解決した。

 用事を済ませた母親が自宅の前まで来ると数台のパトカーが止まっている事に気づき、急いで恢達のところに血相をかいて向かってきた。

 母親と警察に本当の事を話そうとしたけど絶対に信じないと思ったので、恢はキララが起こした一件は伏せることにして強盗を退治したのは全て恢がしたことだと取り調べをしてきた警察数人と母親に告げた。

 その三十分後に父親も血相をかいて自宅のリビングに入ってきた。

 どうやら警察が父親の経営している会社に通報が入り、仕事切り上げて急いで自宅に向かったらしい。

 

 長い取り調べも終え、また一家に平和な生活が訪れた。

 両親からは妹のキララを命にかけて助けた事になっているので、この上ないほど褒められてついつい照れてしまう。

 ほんとは妹のキララのおかげであるがそれは恢本人しか分からないこと。

 その大活躍だったキララはベビーベットですやすや熟睡じゅくすいしている。


 今日も寝ているキララを家族三人で微笑みながら見持っていくのだった。

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