ヤンデレ妹はお好きですか?

関口 ジュリエッタ

第1話 父の再婚

 夕陽のオレンジ掛かった入道雲が堂々と現れる時期。黒髪で高身長のそこそこ男前の少年である天界真てんかいまことは 高校の授業を終えて自宅に帰宅し、リビングのドアを開けると夕方のニュース番組を見たいた親父の姿があった。

 いつもは残業で夜遅くに帰宅するのに珍しい、と思いながら冷蔵庫に入っているパックのオレンジジュースをコップに注ぐ。


「真、ちょっといいか?」

「なに?」


 真は飲み終わったコップを洗い、リビングの椅子に腰を下ろすと父親は真剣にこちらを見てくる。

 今までチャランポランな性格の父親が見せない態度だったので真は生唾を飲みながら真剣な面持ちで言葉を待つ。


「実はな真に伝えないといけない大事なことがあるんだ」

「……大事なこと?」


 もしかして会社が倒産したか――それかまたはいつも優柔不断の父親のことだから即刻リストラの対処になったのだと思って拓人はよりいっそ緊張が高まった。


「ああ。実はな父さん……」

(ほらきた……それ以上は聞きたくないよ父さん!)


 いっそ耳を塞ぎたいが、ここは我慢して父親の話しを聞く。


「やっぱり、だからあれほど職場では真面目に――って、えっ! 再婚!?」

「なんのこと言っているんだお前は?」


 父親は首を傾げながら問う。

 予想のはるかか斜め上までいく内容に驚き顎が外れんばかりに真は口を開く。


「てっきり会社をリストラされたのかと思って……」

「真面目で働いてる父さんがリストラされるわけないだろっ!」


 テーブルを力強く叩き父親は弁解する。


「悪かったよ、父さん」

「ところで再婚の件だが……」

「もちろん反対はしないよ」


 気難しそうな父親の表情が大きくゆるみ始めた。

 真の母親が病気で死んで十年が経ち、それまで父親が母親代わりもしながら真のことを面倒を見てくれていたのだ。

 相当身体に無理をさせていたんじゃないか、と正直真は父親を心配していたので、新しく母親になる人が来れば父親も少しは楽になるんじゃないかと思う。


「ほんとか!?」

「もちろん。」

「本当にいいんだな?」

「しつこいよ! いって言っているだろ。それに今まで父さんは一人で俺をここまで育ててくれたじゃないか。感謝もしてるし、死んだ母さんも許してくれるだろ。」

「ありがとう! 真!」


 父親は顔が潰れるほど泣き崩れた。


「大げさだな。そこまで泣くことないだろ」

「だって反対されるかと思ったんだもん」

「いい年して『もん』って言うな恥ずかしい」

「すまん」


 子供のように泣き崩れていた父親は落ち着きを取り戻す。


「それで、新しい母さんはいつ頃会えるんだい?」

「明日の夜七時、隣町の三つ星イタリアンレストラン『スペルバ』を予約したからそこで待ち合わせだ」

「スペルバ!! 一皿10万もする高級レストランじゃないかっ! 父さん、お金大丈夫なの!?」


 父親は親指をグーサインして微笑みだした。


「安心しろ! 代金は全てって」

「いや、そこは男として金出せよ! 堂々と話すな、この乞食こじきがっ!!」

「うるさい! 俺の給料じゃ外食なんて行けるわけないだろ。それに好きなレストラン予約して良いって向こうが言ってくるんだから、甘えたっていいだろが」

「ダメだ……クズ過ぎる……」


 よくこんなダメ男を好きになってくれる女性がいたもんだな、と真は感心してしまう。


「いいか、明日は失礼のないようにしろよ」

「父さんに言われたくないわ。むしろ行きづらい……」


 まさか高級レストランの食事代を新しい母親に全額を出してくれるとなると真は申し訳なくて行きづらくなっていた。


「気にするな」

「気にするに決まっているだろ! もういい、俺は部屋に戻って宿題してくる」

「ちょっと待て!」


 きびすを返して部屋に戻ろうとした時、父親に呼び止められた。


「なに?」

「後から新しい母さんが嫌いになってクーリングオフみたいなことはするなよ」

「新しい母親を通販で買った物と一緒にするな! むしろあんたをクーリングオフにしたいわっ!」

「クーリングオフの期間は過ぎたので無効です」



 この父親と話していると偏頭痛が起こりそうなので真は早く部屋に戻ることにした。

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