"UNSANG"s -アンサングス-
北溜
ー 序章 ー
男は石櫃の前に跪き、両の手を額の前で組んで、祈っていた。
石櫃の置かれた地下室に陽を取り込む窓は無く、男の傍に置かれたランタンの灯りは、湿った壁のぬめりに吸い込まれてしまいそうな程に、弱々しかった。
「よくぞ、ご決断頂きました」
男の背後の闇から、別な男の声が響く。石櫃の前の男は、振り向かないまま、組んでいた掌を解いて、言う。
「仮に俺が動かずとも、貴殿らは別の誰かをけしかけたんだろう?」
「仮に我らが動かずとも、いずれ誰かが気付いていたでしょう」
闇の中に佇む男は、石櫃の前の男の声を遮る様に、語尾に自身の言葉を被せた。
石櫃の前の男は静かに立ち上がり、振り向かぬまま、背後に向けて問う。
「誰か、とは?」
「例えば、アングリア王」
闇の中の男がそう答えると同時に、石櫃の前の男はおもむろに、腰に携えていた剣を抜き、切っ先をその石櫃に向けた。ランタンの僅かな火を、剣身が鋭く反射させる。
「ご安心下さい。あなたのご決断を、無に帰する事は決してありません。あなたが選択を誤らない限りは」
闇の中の男の言葉に、石櫃の前の男は素早く振り向き、剣先を男の鼻先に向けた。
「万が一そうなった時、俺は貴殿らを殺すだろう。貴殿らの悉くを、だ」
闇の中の男はその言葉にも、鼻先に突きつけられた剣先にも、怖じる素振りを見せずに返す。
「いずれにせよ、この国は荒れるでしょう。その中で、我らは我らの成すべき事を成します。あなたがあなたの成すべき事を成せば、我らの願いは必ずや、成就するでしょう」
言って、闇の中の男は薄く笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます