第50話 最後? (1)
後で考えりゃ、あんな恥死確定の台詞、よくも言えたもんだよな。
俺は、家に帰ってからひたすらもだえたよ。どう考えたって、俺には過ぎた台詞だ。
だが、あの言葉に込めた俺の意志は間違いなく本物だ。
だから、おれは小山内の話を聞く。小山内の話を聞いて、俺が小山内を救う。
まあ、そうは言っても、あの日は、もう時間も時間だったし、小山内もあんなになった直後でちゃんと話せないだろうし、ってことで、土曜日に会って、ってことにした。
小山内は、俺の言葉を聞いても、なぜか自分のことは後回しで良いとか、イヤとかって抵抗したけど、あんな姿見せられてほっとけるか。
それに、活動を最後にするって俺の決意は変わらないしな。だから、後回しってありえん。そう言ったら、ようやく不承不承を露わにしながらだったけど、土曜日に会うことだけは承知した。
「ずるい。」と言ったり後回しでいいと言ったり、わけがわからん。
そんな感じで、今日がその土曜日だ。
俺の両親は、中学時代、友人も殆どいなくて土日も独りで過ごしていた俺が頻繁に休みの日も出かけるようになったって、機嫌良く今日も送り出してくれた。
すまない、裏の活動はこれで最後になるから、ぬか喜びに終わらせそうだ。
小山内と合流する場所は、小山内の希望で、俺の地元、つまり小山内の小学校時代の地元の駅にした。
こないだうちに来た時に、気になったカフェがあったからとか言ってたが、本当だろうか?
俺、毎日その店の前通ってるけど、おしゃれだ、って思ったこと無いぞ。
待ち合わせ時間のちょっと前に駅に着くと、小山内がもう着いて駅の前の木陰で待ってた。俺が予想してた電車の一本前に乗ってきたか。
あんなになっても律儀な奴。
今日の小山内は、オレンジのブラウスにデニムにスニーカーという、どこにでもいそうな女の子スタイル。
前も言ったけど、黒髪の美少女の小山内が着たら、その「どこにでもいそうな」が、遠目にも目立つ、に早変わり。
不思議だねえ。
「遅い。あんたが呼び出したんだから、私より前に着いてなさいよね。」
おれは小山内の顔をじっと見た。
「何よ。」
「うん。いつもの小山内だ。」
「なにあんた?喧嘩売ってるの?」
うん。いつもの小山内の中の人が、今日も俺担当だ。
「いや。大丈夫だなって思っただけだ。」
小山内はぱっと顔を赤くして俺の胸元を掴んだ。
「あんた、忘れなさい。今すぐ忘れなさい。」
何を、かは言われなくてもわかる。
でもな、小山内。
今から俺はおまえを救おうって言ってんだぞ。
たぶん、今日の話次第で、もっと俺が忘れなきゃならないおまえの秘密をいっぱい知ることになる。
だから、悪いが、忘れるのはその後だ。
そんな一幕もあったが、俺の「駅前でやることじゃねえな。」の一言で小山内は我を取り戻した。
その後、「昨日の私はあんたが変なことを言ったから、それに引きずられて変なことを言っちゃっただけなんだからね。」という言い訳をひたすら聞かされて、駅から徒歩3分のカフェに入った。
お店の外見は、やっぱり小山内がわざわざ電車に乗ってやってくるような店には見えない、と思う。俺にカフェがおしゃれかどうかなんてわかるわけがないからな。
入店して店員さんに案内されて座った窓際の席も、前に小山内と一緒に入った店と同じような感じ。雰囲気も似てる気がする。
あ、俺、店内の装飾とか、基本同じに見える人だから。
メニューには、なんかうまそうなパンケーキがいっぱい載ってた。
でも、春田さんの話聞いたときに俺がサンドイッチも頼んだら小山内に睨まれたから、ちょっと心残りだけどカフェオレだけにした。
「じゃ私、パンケーキセット。パンケーキはこれで、ドリンクはこのアイスティーください。」
何でだ?
ってことで俺がちょっと睨んだら、小山内は「なに?」って言いながら不思議そうな顔をしたよ。あんなあどけない顔もできるのか?
まあ、そんなわけで俺もフルーツとクリームがたっぷり載ったパンケーキを追加した。
2人が注文した品が届くまで、俺たちは、春田さん元気になって良かったとか、あれニュースになってたとか、言ってみりゃ普通の高校生みたいな会話をした。
これから俺たちが話す内容を知らなけりゃ、俺たちはデートしてるって思った奴がいてもおかしくないな。
でも、俺たちはお互い何も言わなかったけど、人が少なくなるのを待ってるんだ。
2人共にパンケーキが残り少なくなった頃、俺たち以外で最後まで残ってた客が店を出ていった。
俺は、その後姿を見送り小山内に視線を戻したら、小山内も俺を見ていた。
そうだな。頃合いだ。
「話すか話さないかは、小山内に任せる。ただ、俺はおまえを助けたい。そんで、おまえがどっちを選んだとしても、俺がおまえと一緒に誰かを助けるのは、これで最後だ。」
小山内に俺の意志がきちんと伝わっただろうか。
俺は、小山内を助けたい。
だが、ここまで話してきたとおり、俺の超能力は、そう便利には出来ていない。だから、俺が超能力で小山内を救うためには、小山内が自分にどんな助けが必要か話してくれないと、俺には基本何も出来ない。
俺の言葉に、小山内は、顔を伏せた。
さっきより、顔色がだいぶ白い。
その白さが、小山内のどれほど救いを求めているかを表している。
だが、小山内は、まだ話さない。
俺の罪悪感だけが大きくなっていく。
「小山内。もし、おまえが話したくないなら、俺がどう超能力を使えば良いかだけを言ってくれても良い。俺の超能力を何度も見てきたおまえなら、俺がどう言えば、おまえを救ってやれるか、わかるだろ。ただ、そういう超能力の使い方をしたことが今まで一度も無いから、もしそれでダメなときは悪い。そん時は特別サービスで、もう一回だけ人助けをするよ。」
小山内は、顔を伏せながら、唇を小さく動かした。
だが、聞き取れない。いや、声になっていないのか。
「小山内、もう一度たのむ。」
小山内が顔を挙げた。
「わかったって言ったのよ。」
小山内は、いつものような、きつい口調ではなく、穏やかにそういった。
そう言った小山内の瞳に力が戻っていた。
「わかった。じゃ、あなた、私を助けてくれるのね。」
「ああ。俺はおまえを救う。」
「私が、今から話す内容がどんなのでも、あなたは私を助けてくれるのね。」
小山内は、おれをビビらせようとしてるんじゃないってことくらい、小山内との距離が縮まってからまだ1か月しか経っていない俺にだってわかった。
「ああ。おまえが何を話そうが、俺はおまえを助ける。」
「わかった。じゃあ話す。」
小山内はそう言って、グラスに残っていたアイスティーを飲み干した。
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