第24話 始めましょうか (1)

そういうわけで、部活開始前の積み残しは、榎本さんの入部問題だけになった。



と思っただろ?


もちろん、違う。

小山内にしては抜けてるというか何というか。にひひ。


入部試験の日の帰り道。そのことに気がついた俺は小山内に聞いた。


「どこで部活するんだよ。」

「どこでって?」

「部室決まってないだろ?」

「部室?」

「部活動する部屋。」

「そんなの言われなくったってわかってるわよ。あんたバカなの?」


久しぶりに聞いた気がするな、これ。

でも、部活するのに、部室は必要だろ。

もしかしてあれか?

傑作ラノベの巻き込みヒロインみたいに文芸部あたりの部室でも横取りするつもりか?

なんて聞いたら、


「バカだとは思っていたけど、ほんとにバカだったのね。」


という意味不明の評価を下しやがった。


「あんたね。この学校は自由に文化系部活作っていいっていう校風よね。」

「ああ。」

「それ、全部に部室の割当あると思う?」

「ないのか?」

「あるわけ無いでしょ。」

「じゃどうすんだよ。」

「あんた、部の設立届けちゃんと見てなかったの?」


はい、攻守逆転ポイント来ましたよ。俺、そんなの見せられた覚えがない。


「あれか?小山内が森先生ん所に持って行ってた紙か?」

「あれ以外にあると思う?」

「…小山内部長、質問があります。」

「なによ。」


俺のしてやったり的な表情を読み取ったか、小山内は、俺を睨み上げ、唇をちょっととがらせた、怪訝と警戒心がミックスされたような表情で俺を睨んだ。

思うに、すごいかわいい表情で、多分クラスの大半の男はめろめろになるかも知れないけど、俺は笑顔の方がかわいいと思ってるから、そんなのでは手は緩めてやらない。


「胸に手を置いてしっかり思い出してください。」

「何エロいこと言ってるの、キモ。」

「えーっ?返しそれ?お前慣用句に突っ込む人なのか?」


あ、ふくれた。頬がぷくっとふくれた。これはなかなか。

いや、これだったら小山内の言うとおり、エロでキモだな。

そうじゃなくて、王道で反撃だ。


「誤魔化しはいけないぞ。」

「わかったから、さっさと言いなさいよ。」

「じゃ、手をどこにおいてもいいから思い出せ。お前の記憶の中に、その紙をちゃんと俺に見せたっての、あるか?」

「そんなの、あんたと一緒に作る部活なんだから見せたに…あれ?」


小山内のぷくっとふくれてた頬が見事にしぼんで、わざとらしく俺の足元見たり、雲を見上げたり。

夕日に照らされた俺はニコニコしながら腰に手を当てて小山内の前に立った。


「ごめんなさいは?」

「へ?」

「ボロクソ言ってごめんなさいは?」

「悪かったわよ。でも、あんたが変なこと言うからよ、バカ。」


やっぱりなー。こうなるよなー。なんか楽しい。思わず吹き出してしまった。


「へいへい。まあいいや。で、部室はどういうことなんだ?」


小山内は、ちょっとは悪いと思ったのか、いつもより2ミリほど丁寧に説明した。


「設立届けだけで設立できる部活は、基本的に部室の割当がないの。そういう部は、どこか同じような活動内容の部室に居候させて貰ったり、」


ここでもちろん、俺ニヤリ、だぞ。

内心だけでな。

俺、そこまでバカじゃないし。


「校外とか、部員の家とか。最近は、ネット使っても、ズームとかチームスで十分やれるから、ますます簡単に設立が認められてるみたいなの。うちの場合、ネット利用メインで校内のどこかで簡単な打ち合わせとかします、と届けてる。さっき、あんたのおかげで歴研とも友好関係になったから、部室にも出入りできるかもね。」


そういう仕掛けか。たしかに、みんなが集まって一つのものを作り上げる、とかじゃない限り、ネット利用で相当いろいろ出来るからな。

伝統校とはいえ、進んでるところは進んでるんだな。

まあ、もっともそういう進んだシステムを利用できるのは、そういう文明を享有してる奴らにとってだけという悲しい真理があるわけで。とりあえず家に帰って相談だな。


「そういうわけで、あとは活動を始めるだけなの。本当の活動ね。わかった?」

「わかった。」

「よろしい。あーなんでこんな簡単なことを説明させれれちゃうのかしらねー。」


なんか、余計な事を一言言った上にフフンてな感じの生意気な顔しやがったから、さっきは、とりあえず自分で努力してからと思ったことをぶん投げてやることにした。


「わかったけど、それじゃダメだ。」


フフンの顔が怪訝の顔に早変わりっと。


「ダメってなんなのよ。」

「そりゃこういうことだ。」


俺が小山内の鼻先にぶら下げてやったのは、俺のガラケーだった。


「なにそれ?」

「わからないのか?みんなおなじみガラケーだぞ。」

「そんなの馴染んだ憶えないんだけど。」

「だろうな。」

「で、それがどうしたの?」

「ガラケーはスマホじゃないからズームもチームスも出来ないはず。」


小山内はようやく事態を理解したのか、目を大きく見開いた。

ついにやったぜ。にひひ。


「それじゃダメじゃないの。どうするのよ。」


それ、俺に言うことか?


「あれ?でも学校から、ネット授業があるから、対応機器を用意するようにって入学前に指示があったでしょ。あんた知らないの?」

「もちろん知ってるよ。授業の時は、父さんのパソコンを借りることで話しをつけてる。」

「びっくりさせないでよ。じゃ、それ使えばいいじゃない。」

「父さんのパソコンで『超能力が~』とか『助けてください』とかできるとおもってるのか?」


小山内は、あっ、っという顔。


「やっぱりダメじゃない。どうするのよ。」

「どうするのよって言われてもな。さっきいきなり部室の種明かしされたばっかだし。」

「部室のこと気になってたのなら、さっさと言いなさいよ。あんたバカなの?取り返しがつかないバカなの?」


おい。

そこまで言うか?

いくら怒った顔もかわいくても、そこまで言うか?

なんか、2人で作る部活のはずが、1人ですげー頑張ってしまってこうなってるんだし。


まあ。普通、高校生にもなったらスマホ持ってるとは思うよな。

だから、とりあえず、さっきとりあえず家に帰って相談と思ったわけだ。

小山内にだけ戦わしちゃいけない、俺も戦わないとって思ったからな。

でも、小山内のおかげでなんか戦う気がしっかり固まった。


「へいへい。なんとかスマホの許可もらえるように頑張ります。」

「絶対よ。頑張らないと許さないから。」


スマホ許可してもらわないと許さない、じゃなくて、頑張らないと許さない、ってあたり、小山内も意外に優しいな。


ここで、駅について、俺たちはその日は別れた。





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