第23話 入部テスト (5)

入部試験騒動が終わって、みんなが帰った1年3組の教室。

夕日が差し込んで、校庭から響いてくるトランペットの音がぴったりのBGMになっている。最後の片付けをしている俺と小山内。

小山内が黒板消しの手を止めて、机の乱れを直してる俺に言った。


「まさか、あなたがあんなことを思いつくとわね。人は見かけによらないのね。」


憎まれ口を叩く小山内の表情は夕日の逆光になっていて読み取れない。


「偶然俺がひらめいただけさ。きっと、鳥羽先輩や小山内も同じことをひらめいていたと思うぜ。」


俺は逆光に目を細めながら、思ったことをそのまま伝えた。


「それに、俺の問題でもあるんだ。俺も必死に考えるさ。」


小山内は、「そう。」とだけ言って、黒板消しに戻った。



あのとき、俺がひらめいたのは、単純な足して2で割る的なことだった。追い込まれてなかったら、さっきも言ったとおり、小山内もきっと思いついたろう。


俺はこう言ったんだ。


「鳥羽先輩、こういうのはどうでしょうか。小山内さんが歴史研究部に入部する代わりに、歴史研究部と中世史研究会が定期的に交流を持つというのでは。

小山内さんと先輩方の興味のある分野がやっぱり違うので、小山内さんがそちらに入部しても、結局は1人で活動することになると思います。

でも、先輩方の、一緒に歴史で盛り上がりたい、というお気持ちもよくわかります。

だから、文化祭とか、部誌発行とかは歴史研究部と中世史研究会が共同で行って、普段の活動はそれぞれ別の部活として行う、というものです。」


鳥羽先輩、表情に気持ちが出すぎだった。

一気に明るくなって、「うん、それだ!」だって。小躍りしそうになってた。

先輩、モテるでしょ。


それまで口を開かなかった篠田先輩も、「それがいいんじゃないですか、鳥羽先輩。」って言ってくれたので、決まった。

小山内は律儀に、そうと決まるまで頭下げてたので、そのときどんな顔してたのは永遠の謎だ。


まあ、さっきの憎まれ口からすると、あれで満足って事で良いんじゃないか?


あの後、騒がせて悪かった、といって鳥羽先輩は入部テストを辞退。

さっき、小山内と一緒に鳥羽先輩の点数を確かめたら76点だった。

おもわず、小山内と2人で顔を見合わせた。

小山内、おまえも表情に出過ぎ。


そうそう、結局唯一の2回戦進出者になった榎本さんの方は、時間も遅くなったので、俺のとあわせて明日斉藤先生に添削して貰うそうだ。


小山内に、


「榎本さん、あれ実力か?」


って、直球で聞いたら


「どう思うー?」


とか言って笑いやがった。


はいはい、諸葛凜さんがうまくやってくれるでしょ。







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