第肆拾壱話 “西”


午谷、寅尾side



作戦決行の時刻になり、2人で森へ足をすすめる。


「ほなちゃん。夜の森ってやっぱり暗いね〜」


「月明かりも森の木々で防がれて見えにくいな…あ!そこの足下気を付けて」


「え?わぁ!」


木の幹が盛り上がったものに躓く。午谷は肩を抱き寄せ転倒を防ぐ。


「大丈夫?」


「ありがとう、大丈夫だよ!」


(い、イケメン…)


顔の良さに眩しくなり、目を細める。その様子を見て午谷は笑顔を見せる。


あの一件以降、午谷は寅尾と関わりにくくなっていたが、いつもと同じく、変わらない反応で不安は振り払われる。


「ほなちゃん」


「ああ、来てる」


自分達の向かっている方向からこちらへと歩みを進める妖力が一つ。


「わぁ、女の子だぁ!しかも2匹!いいねぇ。女の子は体が柔らかくて食べやすいんだよね〜」


人の体、人の顔、だが手と足の関節同士が異様に長く、手の長さは4m、足の長さは折り畳まれているが3mは下らないだろう…


「お前名前は?」


「あ!それってぎゃくなんってやつ!?嬉しくなったから特別に教えてあげる!僕の名前は|手足長(しゅそくちょう)。ぬらりひょん様にこの森に入ってきた人間を殺すよう命令されてるんだぁ」


(手足長!?大入道(だいだらぼっち)ほどの大きさだと記憶しているが何故サイズが小さい…?)


「じゃあいただきまーす!」


口を大きく開ける。その口は瞬時に大きく見え、それは大入道ほどの口の大きさとなっていた。


「!?」


驚きはしたが2人はこれを難なく交わし距離を取る。


(なるほど、大きさを自由に変えれるのか)


閉じた口はその一帯のものを全て食らいそこには何も無かったかのような平地が現れる。


「的がデカくて助かるね!」


ドゴォォォォォォォォォォンッ…


「あが、がが…」ジジ、ジジ…


天より落ちた雷(いかづち)は手足長を射抜く。山に音が鳴り響き、直撃した地面は焦げ、辺りに異臭と振動をもたらす。


相変わらず恐ろしいと思う。この子に自分が勝てたのは殆ど奇跡に近かったのだ。


寅尾家は代々、十二支の寅の能力を子へと継承し、静かに暮らしていた。それが許されたのは持っている能力(ちから)が圧倒的だった為。

寅尾白の能力は「“迅雷(じんらい)”」。その名の通り、雷を操る能力である。


「うち達は進まんと行かんのよ…そこ退いてよ」バリバリ…


「合わせる」


帯電する拳は掠っただけでも痺れる。手足長は先の一撃がかなり効いている為、動きが鈍く、2人の息の合った殴りと蹴りのラッシュをもろに受け取る。


が、午谷は疑問を抱く。普通の妖怪ならば先の落雷で祓えていてもおかしくはない。そして、ラッシュも効いてはいる…それなのに一向に散りになる気配が無いのだ…


(おかしい、何か…)


突如、手足長が動き出し巨大化した腕で一帯を薙ぎ払う。

離れるが動き出しが遅かった寅尾はまともに攻撃を受けてしまう。


「白!」


「大丈、え…?」


攻撃を受け、後方へと吹っ飛ばされ木に激突する。午谷は寅尾の元へと駆け寄る。無事に見られたが防御した腕があらぬ方向へと折れ曲がっている。


(攻撃力が上がった?あいつの能力は身体の大きさを自由に変える能力では無いってこと?)


「痛いじゃん!まだ痺れてるし、僕じゃなかったら消えてるよ!」


「ほなちゃん、うちあいつの能力分かったかも」


「なら任せる。私はどうすればいい?」


「攻撃を与えちゃダメ。私の臨界解放までの時間稼ぎをしてほしいの」


「分かった」


「何を話してるんだよ〜!」


部分的に巨大化させながらの薙ぎ払い。避けにくい。でも巨大なだけあって動きは鈍い。


(私に注意を向けつつ、攻撃を避ける。相手へのダメージは最小限に)


「ぐぬぬぬ!あぁ!もう!全然攻撃当たらないし!全然攻撃してくれないじゃん!俺攻撃されないと意味ないのに!」


「やはりそうか、お前の能力は受けたダメージによって力が上がるもの。ならこちらは逃げに徹させてもらう」


「もう!使っちゃうもんね!“臨界解放”!」


“臨界解放・死進一体(ししんいったい)”


唱え終わると午谷と手足長を中心に黒い闇が周りを覆う。覆われると午谷の背後と手足長の背後に白く歪な形の人形が現れる。その人形の右手には鎌が握られ左手には刀身が3mほどの長い太刀が握られている。


(白の姿は無い。という事はこれは孤立型の臨界解放。そして一対一でしか使えないもの…)


「じゃあ僕からだね!」


そう言い手足長は右腕を刃に変形させ伸ばし切り裂く。


「くっ…!」


左肩から振り下ろされ腹までを裂かれる。


(見た目ほど威力はないが…この攻撃は避けれない!?)


午谷は攻撃の振るわれる間際、避ける動作をしたがその場に戻され攻撃を受けた。


「あれ?あまり聴いてない?けどまあ次は君の番だよ〜」


(なるほどね…)


これは相手と自分が変わり代わりに攻撃をするもの。多分これが解けるのは先に絶命した方。


一周目、二周目…三周目とお互いに攻撃を与えていく。


「まだ倒れないんだね〜」


手足長は妖怪。手足が無くなっても人間ほどのたうち回ったりはしない。それどころか傷は再生する。この臨界解放は明らかに午谷が不利。


初撃の右肩から腹部にかけての切り傷、二撃目の腹部への横一線、三撃目の腕への一撃。

傷は浅けれど着実に午谷にダメージがある。そして懸念すべき点は出血量。対して手足長、午谷から受けた傷は全て完治済み。


「あ〜食べたいな〜どんな味がするのかな〜」


「時間稼ぎにもってこいの臨界解放(わざ)って訳ね…けど」


手足長は忘れている。臨界解放外にいる猛獣(・・)の存在を…


「忘れてるよ彼女の事を」


「?」


外と内とを隔てる闇。それは音を立てて崩れていく。


「ほなちゃん!」


「な…で…???」ゴフッ


臨界解放が外から破られた事により手足長はダメージを受ける。


「能力ってのはリスクとリターンの関係にある。臨界解放でも同じ事が言える。内の能力を強くしすぎると外からの攻撃に弱くなる」


「ほなちゃん後は任せて!充電、完了したから!」


「任せる…」


“臨界解放・雷衝號電(らいしょうごうでん)”


天から落ちる雷。瞬きの間、音を超え、手足長に落ちる。その力は地を揺らし、草木を焼き、後に轟音を轟かせる。


「受けきれなかったね〜…食べれなかったことが…ざ…ねん…」


手足長は散りとなり空へと登る。


「ほなちゃん!!早く響也さんの所に!」


「やっぱり凄いね、白は」


勝者 寅尾&午谷。

決め手 “臨界解放・雷衝號電”

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