第参拾捌話 修練

「ほら〜もっと鼠を出せるようにね〜」


「おおぉぉぉ!!!」



一週間前…

閻魔さんの説明も終わり、閻魔さんの言った鍛えると言う事の意味を聞く。


「先も言った通り君たちを鍛えてあげるよ。みんな各々が感じているはずだ。ぬらりひょんやその他の妖怪達の力が増しているってね」


颯)「…」


「ぬらりひょんはまた狙ってくるよ。その時まで君たちは何もしないで生活するつもりかい?また今日のような後悔をしたいかい?」


「「「したくない(です)!」」」


「なら私が君たちを上の段階に連れて行ってあげるよ。閻魔式、内緒だよ?」



そして、今に至る。


颯に課せられた修行は兎に角、妖力量を上げる事。墓地での戦闘の最中、即興で会得した臨界解放。それは未完成の代物で妖力が足らず自壊。その為、自身の妖力を全て出し切り許容量を上げる訓練をしている。


牛呂さんは臨界解放の会得が目標。今は石の上に座り目を瞑り内にある力と対話をしている。


俺はと言うと…


「あ、凪はね扉を開ける訓練をしてね」


「扉を開ける訓練?」


一週間の療養を得て、復活した俺も訓練に参加する事に。


「そ、なんでもいい。凪の能力は“門”を使用しての祓い。でも自分自身で祓うってあんまやってこなかったでしょ?」


言われてみればそうだ。この町に来て、鴉天狗、白蔵主、死人憑、黒鬼。全て“門”を使用して祓っている。


「今までは命令された“門”が自分から開けてたんだ。だから君が開けてあげるんだ。そしたら“門”も君に答えてくれる筈だよ。でも訓練中は能力の使用を禁止するから、扉を開ける訓練ね」


「はい」


なんでもいいと言うことなので自室の部屋の扉を開け閉めする。“門”を使った時のことを想像しながら。


「凪くん…」


「八城さん!?大丈夫?まだ安静にしてなくて」


「大丈夫。響也さんに見てもらったんだけど身体を動かした方がいいって」


それを聞いてホッとする。歩けるまで回復しているとは思わなかった。足の大怪我も傷が残るんじゃないかと心配だったが流石響也さんだ。


「良かった…ごめん。力になれなくて」


「ううん。私は凪くんには沢山貰ってるよ」


「え?」


「私、中学の時凪くんに助けてもらってるんだよ?」


「!?ごめん、俺覚えてなくて…」


「大丈夫だよ、凪くんにとって人を助ける事って当たり前の事だって分かってるから。誰かを助けるために、誰かの為に動ける人って少ないんだよ?」


「…」


「あの時、すぐ帰っちゃったから言えなかったんだけど、ありがとう!助けてくれて」


その言葉を聞き鼻の奥が痛くなる。


「俺こそ、いっぱい…貰ってるよ」ボソッ


「え?」


「なんでもないよ」


この気持ちはまだ自分の中に押しとどめておこう。いつか、この気持ちを彼女に伝えるその時まで。


その様子を陰から見守っていた3人。


「なんで言わないのよ!凪くんのヘタレッ!」


「甘い…うッ…口から砂糖が…」


「颯くんのそれは妖力切れによるものだね〜」


蝉の鳴き声が四方八方から聞こえ、夏を感じさせる。その夏は一時の物で季節は巡り次の季節がやってくる。それは時の流れを感じさせるものだ。




暗い森の静寂を突き破るように声が聞こえる。


「痛い…痛いよ…」


瞳の無い彼女の鳴き声だけがその森にこだました…

その彼女を助けるものは誰もいない。ただただ暗い新月の夜のような光も映らない光景。彼女にとって見えない事は精神的にきついものがあった。それはずっと見えていた(・・・・・)から。


自身の死を身近に感じる。今まで忘れていた事、光景が流れるように脳内で映し出される。


“忘却体質”だった自分を不快にも思わず、ずっと一緒に居てくれた2人。十二支の後輩たち、そして凪くん。彼ら彼女らの顔を思い出し笑う。最後だけでも、


“会いたかったと”




海水浴場襲撃から三週間後…


お盆にはご先祖様の霊が帰ってくる。諸説あるが、一般的にはご先祖様を祀る行事のような物。

妖怪の力が増しているのはお盆の影響もあると閻魔さんが教えてくれた。


いつものように訓練をしていた俺たちの元に一本の電話がかかってきた。非通知からの連絡。いつもなら出ないのだが、嫌な予感がした。


「もしもし…」


「あ、凪か…」


「…あ、戌乖先輩!?どうしました?」


戌乖先輩の声は枯れ、電話越しでの判別が容易ではなかった。


「落ち着いて聞いてくれ、珠ちゃんが…死んだ」


「え…?」


たまちゃん…鳥居先輩が…死んだ?何かの間違いなのでは?でも戌乖先輩の声が本当の事だと物語っていた。


「…何があったんですか?」


俺は詳細を聞くため、戌乖先輩と猿飛先輩を自宅へと招き入れた。


葬式は親族だけで行ったようで、幼い頃から親しかった戌乖先輩と猿飛先輩ですら挨拶に行けなかったようだ。


居間に招き入れ詳細を聞くため座る。

雨ちゃんを抱き抱える九尾、八城さん、トトさんを抱き抱える颯、牛呂さん、閻魔さんも同席している。


お茶を出し、一息ついた所で戌乖先輩が口を開く。


「珠ちゃんは俺と凌の3人で力を増した妖怪達の討伐を行ってたんだ…」


暗い夜で森の中、寸前先の道まで分からないが俺たちには関係ない。


暗所、遠方、索敵のできる珠ちゃん。遠距離からの援護ができる凌。近距離での直接戦闘では俺、この三角の陣に敵など居なかった…

その時まではー

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