第参拾漆話 極地にて
「閻魔さん!?」
自身の背後から横に歩いてくる人物の名前を呼ぶ。
「間に合った…とは言い難いね…」
見回す閻魔は氷漬けの九尾と足が使い物にならなくなった凪を見る。
「閻魔じゃと…!?」
ぬらりひょんも驚いている。それもその筈、本来閻魔とは地獄を統括している王。ならば地獄にいるのがごく自然、ごく当たり前の事なのだが、今いる場所は現世…
「私が何故ここにいるのかはさておき、今は目の前の敵を片付けようか」
「聞いていないぞ!?何故そんな大物が現世に、それに何故一市民の此奴に手を貸している!?」
「だから話は後って言ったじゃん」
開かれた目を見てぬらりひょんは怯む。その目の色は黄金色。閻魔の目は吸い込まれそうなほど綺麗でその綺麗さが奇妙だったからだ。
「“臨界解放・百鬼夜行絵巻”妖怪達よ、行けッ!」
「「グォォォォォッ!!!」」
臨界解放により召喚された妖怪達が一斉に閻魔の元に向かう。
「閻魔さ、」
口に人差し指を当てて微笑む。
「臨界解放は強力な技だがそれにはリスクもある。妖力を大きく消耗するという事と、臨界解放が破られた時、使用者に大きなダメージがある。まさに奥の手ってやつだね」
“消失(しょうしつ)”
ぬらりひょんの臨界解放から放たれた妖怪達は全てが消えて無くなった。
そこには血反吐を吐きうずくまる老人の姿。先まで確かにそこにいた妖怪達は見る影もなく全てが消えている。
「き、貴様…何をした…?」
(やつは動いてすらいない。何が起こった…!?)
「私の能力(ちから)、“無垢・式(む・しき)”で君の臨界解放発動後の能力を消去した」
「何故、何故お前が居るのだッ!地獄の王よッ!」
「うるさいなぁ…私は凪の味方なだけだよ」
手のひらを前に出し、唱える。
「“無窮”」
手のひらから放出された妖力の塊、その妖力量はぬらりひょんが霞むほど大きく禍々しい。
妖力の塊の見える場所は空間を歪ませた、が辛うじて円を保っていた。
瞬間、それはまさに一瞬であった。塊は姿を変え全方位を吹き飛ばした。
「ふぅん…流石、逃げるのだけは速いんだね」
妖力の放出された海岸は元の海岸と比べるとそこが本当にその場所なのか分からない程、地形を変動させていた。
九尾を氷の塊から解き、凪に近づく。解放された九尾は人型に戻り倒れる。
「妲己!」
「心配いらないよ、凪より軽傷だ。今は気絶しているけどね。遅くなって怪我をさせたね…」
「閻魔さん、八城さんが!」
足を引きづり閻魔の腕を掴む。
(この子は…自分も重傷なのに他人の心配ばかり…)
「大丈夫だ。あっちには名医の弟が居るんだろう?それよりもだ」
凪の足に手を当てる。足は時間が巻き戻されたかのように元通りに戻る。
「よし、気になっているであろう。私が何故ここにいるのかって奴だね!実を言うと私は幽霊なんだ」
「え!?」
「あぁ!誤解しないでよ、危険な状態ではないからね。地獄の王は地獄以外からは出られない現世から隔絶されているからね。自身の身体を仮死状態にして幽霊という形でここにいる訳だ。その際、地獄での“王権”を放棄してきたから地獄の能力は使えないけど、それでも戦力としては申し分ないでしょ?」
指を立て笑う閻魔を見て凪は思い詰める。
(そうまでして…)
「私はね個人として、友として凪の将来が幸せで満ちているように願っているんだ。だから手を貸す」
「閻魔さん…」
「さあ、帰るよ。八城くんが無事かどうかも確かめないとだしね」
「はい…」
周りに恵まれている。そう感じさせる。凪の目から数滴の雫が流れ落ちる。それは良い涙か、悪い涙か、恐らく前者であろう。流した涙を糧に強くなれと1人の王は思うのである。
「処置は済んだ。無事だよ」
「よ、良かった…」
閻魔さんには九尾を連れて家に行ってもらい、診療所に寄り響也さんから話を聞く。その間無事という事を伝えられ先の緊張が解れる。
「ただ病室に空きが無くてね…」
「空きが無いって怪我人が多いって事ですか?」
「このジジイがね…」
「誰がジジイじゃ!あいたたたた…」
病室の扉を開け出てきたのは辰川さんとアラクネー。辰川さんは上半身を包帯に覆われて点滴を持ち、それを支えにしながら歩いている。
「辰川さん大丈夫ですか!?」
「少しヘマをしての…」
辰川さんの話によるとぬらりひょんとの臨界解放の撃ち合い後、その余波に身体を蝕まれ、森で気絶していたらしい。
「そこをアラクネーに助けられての」
「ったく、歳だからあまり動かないでよジジイ」
「誰がジジイじゃ!誰が!」
「ん?って事は八城さんは今どこに?」
「凪、君の家だよ」
「…え?」
自分の家の客室で眠る八城さんを見て響也さんの話が現実味を帯びてきた。
居間に戻り颯達と向き合う。
「みんなごめん…」
「一悶着あったけど、みんな無事じゃん。俺の方こそ悪かった。俺が海なんて誘わなかったら」
予想通り、ぬらりひょんは診療所に奇襲を仕向けていたらしい。
「それなら私だって…」
「やめるのじゃ、後悔しても遅いじゃろ。これからどうすべきか考えるんじゃ」
トトさんの言う通りだ。謝ったって八城さんの傷が治るわけでも、無かった事にもできない。
「妖怪達の力も増していたのう…」
「なら私が君たちを鍛えてあげるよ!」
「「誰?」」
颯爽と登場した閻魔さんは颯と牛呂さんの反応を聞き床に倒れる。そして俺を見て説明してなかったの?っと言う顔をする。
「すみません…」
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