最終章 ありしひと(2)
静かだった。夢はみなかった。
意識は突然に戻った。一度死んで、生き返ったみたい気分だった。
暴れる光りの気配を感じた。瞼をあけると、泥水が目に流れ込んできた。立ちあがる、たぶん、どこかの骨が折れていた。泥にまみの手で目に入る泥をぬぐった。
見えてきたのは、無数の竜の姿だった。どの竜も動きを止めている。竜の群れのなかにいた。それから、無差別に放たれる赤い光線だった。
遠くで、身を起した白い竜が首を振り回し、壊れたように口から、あの赤い光線をあたりに放っていた。都へ向け放ち、何もないところへ放ち、同じ竜たちへも放つ。
落とした竜に突き刺したままの二本の剣を引き抜きに向かった。どこかで抜けてしまったのか、剣は片方しかなかった。せんせいの剣だけだった。それだけ手にして、白い竜へと近づいた。
光線を身体に受けると竜たちは倒れてゆく。避けようともしない。命を差し出しているとも違う。赤い閃光は、なにか、ひたすら生命の否定にみえた。
竜たちをかわしながら白い竜へ迫った。鯨銛りが刺さった奴の首は、もげかけていた。
奴は近づくおれのことなんて気づきもしない、見境なく光線を放ち続ける。
激情まかせに首を振り回す。無茶をしているせいで、奴の傷口は大きく開きはじめていた。血が跳ねて散っている、それでもかまわず、光線を放つ。
そこにあるのは破壊だけが目的の存在だった。
きっと自分の生命にも興味がない。
破壊に囚われていたせいで、おれが間近にいることにも気づけていなかった。しばらくそこにいると、ようやく、気づき光線を吐くのをやめ、頭部をおれの視線まで降ろす。
手が触れれば届く距離、奴は顔を寄せてきた。
《おまえは誰だ》
問われた。
「しゃべるなよ」
瞬間、奴が口から赤い光線を放つ。
どうせ、片目を狙うんだろ。
皮肉に運命をゆだねて頭をさげつつ避ける。
ほとんどもげかけていた首へ剣を叩き込んだ。
それで白い竜の頭は胴体から切り離れた。
そして、すべてが静かになった。
やがて、竜たちが最初は一匹ずつ、最後はほとんど一斉に空へ戻っていった。
雨で濡れた地面から飛び立ったせいか、竜たちから落ちた滴に夕陽の光りが反射して、空にあふれてみえる。
おれはそれを見上げていた。
やがて、少し離れた場所でホーキングも同じ空を見上げているのをみつけた。顏のはんぶんが焼かれ、残った片目で去ってゆく竜たちを見ている、
その両手には、もう何も持っていなかった。
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