第十章 竜払い 後編(2)

 それからホーキングは、おれを生き残った竜払いたちの元へ連れていった。もう、味方も敵もないらしい。あの協会の会長は二日前に船で逃げ出そうとして、竜に船を焼かれ、行方不明になってしまっていた。

 竜払いたちは酒場にいた。そこにいた二十人で残った竜払いはすべてだった。

 おれたちが合流すると、今日の夕方の定期的な竜の襲撃を迎え撃つか、そうしないのか、話し合っている場面だった。明日には、完全に都は竜につぶされる。何もしなければ、明日にはみんな死んでしまうし、だからといって、今日戦って生き残れる保証はなにもない。

 作戦を立てるというより、どちらを選択するかの話になっていた。

「やっぱり戦いたい奴だけが戦うってことだけいいだろ」男の竜払いがそういった。見た目は強そうだが、かなり憔悴している。

 彼の意見に、誰も同意も、否定もしなかった。

「それで決まりでいいだろ、もう竜払いだろうがなんだろうが、意味がない」

 続けて言う。やはり、誰もなにもいわなかった。

 そこへ。

「時間がねえのでえええ!」

 ホーキングが店が揺れんばかりの声で叫んだ。

「でけえええええ声でえええぇええ乱入ぅぅさせてもらうぜえええ! っと!」

 さっきまで無生物みたいなっていた竜払いたちが、気付け薬をくらったみたいに、驚いてこちらを向いていた。

「いよーし、みんなこっちを向いたなぁ!」

 そして、ホーキングはさっきまでの重く立ち込めた雰囲気など、まるで無視して続けた。

「きけえぇ! やり方がわかったぜ、はは!」

 豪快に笑いながら言う。ついてゆける、ゆけないを越えて、みんな、固まっていた。

「いいか!」と、いきなりホーキングはおれの肩を掴んで、みんなの前にへ押し出した。「このヨルって男はなぁ! 昨日の一晩、ひとりで大陸中の竜をぶったおし続けながら負けなしでここに来たっていう、とんでもねえ竜払いの先生だ! しかも、自らこの都に入った! 赤ちゃんまで助けてなぁ!」

 雑な誇張が施されている。けれど、そこにいた竜払いが信じるを知るはずもなく、彼らがおれを見る目に対し、罪悪感さえおぼえた。

 でも、訂正する隙なんて、ホーキングが与えてくれるはずもない。

「しかもいいかぁ、お前たちいいか! このヨル先生がとっておきの作戦を担いできてくれた!」

 景気よく言い切る。

 手加減はなしだ。


 

 それはこの酒場へ来る途中、ホーキングにした話だった。

 気づきというべきか、違和感というべきか。

 もしかしたら、昨夜竜に感じたそれは、ホーキングも知ってるような、じつは有名な情報なんじゃないか。

 その程度の緊張感で聞いた話だった。

「おれの剣を噛んだ竜が一瞬、かなり不愉快そうな様子になったんだ。そしたら竜の動きが止まったんだ」

 これって、そもそも竜払いのなかでは常識なのか。知りたくてホーキングに聞いた。

 そして、ホーキングは答えた。

「なんだそれ」



「ここに立ってるヨル先生はなぁ! オレんとこの大陸じゃ、もはや、もはや伝説だ!」

 ホーキングはさらに手加減なしで続ける。

 拳を握り、時に、その場にいた竜場合たちを太い指で指差し、確実に酒場の外まで聞こえる音量で言い放つ、まるで演説だった。

 良きか、悪しきか、きかされる竜払いたちは、身心喪失寸前の状態だったせいか、じっと話をきいていた。

「この大先生が反撃のやり方を教えてくれた!」

 ここでも言い切る。確信なんて、ないものを、堂々と、さも確信ありに。

「夕方には竜が来る! 時間がねえ、準備するぞ!」

 そうホーキングが叫ぶと、近くにいた竜払いの男が、隣の竜払いと顏を合わせた後、言った。「………俺たちに、なにをしろって?」

「すべての竜を払うんだよ」

 ホーキングは歯を見せて笑った。

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