第八章 生まれた場所以外のために(11)
陽が登るなか、フリントの船から降りた人々が次々と島へ上陸した。
向かいの大陸の赤みは、もうほとんどなかった。いよいよ焼けるものがなくなったのか、どうなのか。
降りて来るみんなは、ほとんど着の身着のまま、さっきまでそこで日常を生きていたような格好で、とても旅をする者みは見えず、大きな荷物を持っている人もいなかった。家族のいる人たちは、親子で寄り添いながら砂浜につき、魂がつきたようにその場に座り込んでいった。ひとりで降りて、崩れるように炎のない陸地に身を預ける人もいる。
詳しい話を聞きたかった。怪我を負ったというヘルプセルフ、彼のことも。けれど、ここは船の人々を島へ移動させるのが優先だった。かなり過酷な航行だったらしい、それぞれの顏に浮かぶ疲弊色は濃かった。みんなを誘導するリスだけが、戦士として機能していたけど、彼女にも当然、疲れはみられた。
船体へ目を向けたフリントの姿もみえた。彼もこちらに気づき、手をあげて挨拶をした。こっちも手をあげて返した。船から人を降ろす間に、トーコは一度、ビットたちの元へ戻った。
フリントがいるといことは、ホーキングもいるのか。リスに確認したかったが、彼女は忙しい。一方で、予感はあった。悪い予感だった。たぶん、あの船に、ホーキングは乗っていない。
最後の方になって、フリントがヘルプセルフを背負って船から降りて来た。それから小船に横たわって乗せた。
彼は、どんな状態だというんだ。気持ちが急いて、船が島に近づくと海へ入って船に迫った。
仮面をつけていない。ヘルプセルフは、あの知的な顔立ちのまま、目をつぶっていた。意識はない。塩水が被らないように身体を毛布で覆ってあったが、揺れでずれた毛布がずれ、腕と胸には包帯が巻かれているのがわかった。竜にやられたのか、人にやられたのか。なにがあったのか、知りたかったが、聞くには気が滅入りそうな話になりそうだった。彼の剣は、かわりにリスが手に持っていた。
そうしているうちに、セロヒキとビットがやってきた。トーコはこどもたちと、人々を村へ招き入れる準備をするという。とはいえ、いまの島に、これだけの人たちを充分に、招き入れるだけの資材がないのが現状だった。それでも彼女たちは、出来る限りのことをするに違いない。
ビットは手をあげ「みなさん、こっちです! ぼくたちの村に案内します!」と、声をあげて、みんなを誘導した。「歩けますか、あともうすこし、もうすこしだけがんばってください!」
ビットは臆することなく、自分より遥かに歳上の大人たちの先頭に立ち、村へ向かって歩き始めた。
ヘルプセルフは二本の箒に上着を通してつくられた担架に乗せ、村まで運んだ。
担架の前はセロヒキ、後ろはおれが持った。
そして、我慢できず、村へ出発するまえに、リスへ聞いた。
「ホーキングは」
彼女は答えた。「あいつは都に残った」と、大きな何かに堪えるような表情だった。
それから少ししてリスはいった。
「私、白い竜をみたよ」
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