第七章 ある、限りは(7)
これからのことが大きく決まった。ホーキングとフリントは向こうの大陸へ戻り、白い竜を探す。他は島に残って、復興の手伝いに準じる。
とはいえ、ホーキングたちも、今日の今日に大陸へ戻りはしなかった。「出発はあしたにするよ」と、言った。
それで残って、ホーキングたちが何をしたかというと、けっきょく、島の復興の手伝いだった。まずは青空の下で会議をした。仕切ったのはリスだった。とうぜん、トーコも一緒に。ただ、彼女はぼんやりときいているだけだった。そしてなんとなく、他のこどもたちも同席していた。こどもたちも、ぼんやりときいているだけだった。
とりあえず、食料の確保を真っ先に。当面の食料はおれたちも持って来ていたが、長居するなら生産は必須だった。トーコにきけば、島にはだめになってしまった田畑があるが、再生可能な場所もまだ充分残っているということだった。そしてビットによれば、釣りをすれば魚も捕れるという。それに森には木の実がある。家畜は竜にやられてしまった以外、多くが森に逃げてしまったらしい。リスは「そんなの地の果てまで追いかけて捕まえるまでよ」と、なぜか悪党染みた様子で目論まれた。
住居問題も外せない。トーコたちの寝起きする家以外、もう島にはまともな家は残されていなかった。その家もトーコをふくめ、もともとこどもたちの誰の家でもないらしい。住んでいた住民は、だいぶ前に亡くなってしまったという。
「建築現場で働いていた、軍に入る少しまえだ」と、セロヒキがいった。「道具があれば修理ぐらいは。道具も島のどこかあるかもしれない」
それから彼はトーコへ顔を向けた。
「探してみてもいいかい、残っている住居跡を探すことになる。もちろん、かつての家主の尊厳を軽んじるようなことはしない。協力を求めるように探す」
もしかすると、火事場泥棒めいたことなのかもしれない、いまはもういない人々の尊厳を気にしてセロヒキが、島民である彼女とこどもたちに許諾を求めた。
トーコにしても、それをどう答えるべきか難しいことに思えた。それでも彼女は「きっとだいじょうぶです」と答えた。こどもたちはおそらく流れでうなづいていた。
「生活、取り戻そう」
ふと、リスがいった。
「まーあ、取り戻し方とかわかんないけどね、さっぱり、やったことないし」
そして何か保険をかけるように言葉を続ける、彼女らしかった。
総合的にいえば、その会議はじつに、雑なまま進み、雑な目標のまま終わった。みんな、きちんとした会議というものを知らないせいだった。リスは会議の締めに「あ、そうそう、あんたたちの寝床は、しばらくそこらの野っぱらね」と指定した。「あたしはトーコたちの家に寝床をかりるから、女の園に」
その発言を受け、おれたちは野原を見た。ヘルプセルフが「あの辺の草が柔らかそうだ」と言っていた。
そして、復興は翌日からはじめられた。快晴だった。セロヒキは早々に、半壊した家屋から使えそうな道具を多数みつけだした。建物を再建、補修するための材料のめぼしもつきそうだった。ホーキングとフリントは、けっきょく、翌日には出発せず、魚を捕りに出掛けた。海への出発間際、ホーキングは「まあ、少しは何か島に足してから行かせてくれよ」そういった。
リスは「島を回って作戦をねる」いって、あとは「そう、ねるねるねるのよ………ねるねるねる………」と、ぶつぶつ呪文のようなものをつぶやきながら言ってしまった。
ヘルプセルフは家に残るこどもを見守る、用心棒な役目を与えられた。「わかった、ついでごみ拾いもしておく」と、仮面越しにそう答え返された。
なにを考えてそう発言したのだろうか。
そして、おれとビット、それからトーコは森へ逃げてしまった家畜たちを連れ戻しに向かった。鶏と牛。とくに牛、乳牛を村まで連れて帰れば、食料生産事情が大きく躍進するという。トーコによれば、牛がいる場所はわかっていたが、なにしろ、村には牛を留まらせておける牛舎は残っていないし、牛が竜に怯えて、乳を出せなくなり、ふたたび逃げ出す可能性は高かったため連れ戻せずにいたらしい。
「人に懐いている牛たちだからゆっくり誘導すれば連れてこられると思う」
彼女の言葉を信じ、従い、おれは彼女とビットたちを追って森に入った。光りのよく入る、濃い緑の森だった。吸い込んだ空気に味がある、出来たての酸素を取り込んでいる気分になった。
牛はすぐにみつかった。たしかに、大きな牛だった。ちょっとした竜ぐらいの大きさがある。森に空いた空間にたたずみ、湖のそばに生えた青い草を食んでいる。トーコはゆっくりと牛へ近づいた。よく見ると、牛の身体には火傷や、切り傷の後がみえた。トーコが近づき、優しく、それでも慎重な手つきで誘導すると、牛は彼女の後ろを歩きはじめた。牛を導く、彼女の一連の光景は、なんだか神々しいものにみえた。だが、そのあとすぐにビットが「あ、ヨルさん、あそこに鶏いる!」と、叫び、我に返った。しかも、ビットが叫んで教えたので、鶏がにげてゆき、それを必死で追いかけることになった。
ビットいわく「なんだか、うれしくて、つい叫んじゃいました」ということだった
にしても、復興。その適切な手順をおれたちの誰も知らなかった。どうすれないんだろうか。模索して、けっきょく、とりあえず、思いつくことから手をつけていった。
そして、どたばたとやっているうちに一週間が過ぎていった。
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