第8話 シアワセナカノジョ

「な、何を言ってるんだ隣子。多分それは横の席の人が弁当食ってたからだよ。スパゲティ弁当。それに女って後輩と仕事の話ししたからそれでかな?」


 俺は一瞬ドキッとしたが、咄嗟に嘘をつく。本当の事を言ってはまずいとなんとなく感じた。


「……ふーん。ま、いいや。……じゃあ帰ろっか!今日はカレーにしたからね」


「カレーか、いいじゃん。好物だよ」


 隣子は納得してくれたのかいつもの笑顔の隣子に戻る。いつからいたのかとか、そもそも職場の最寄駅を教えた記憶もないがせっかく機嫌が戻ったのだし聞かないことにした。


 ………

 ……

 …


「ごちそうさまでした。今日もすごく美味しかったよ」


「よかった〜、喜んでくれて♡」


 帰宅後、隣子の用意してくれていたカレーを2人で食べた。一応小野寺との会話のこともあって注意して隣子のことを見ていたが特におかしな所はない。なんならむしろこの笑顔に癒される。


「あ、そういえば望実、今日いいことあった?」


 隣子は食べ終えた皿を重ねながら俺に問いかける。


「いいこと? 別に特に無かったけど……まぁ課長がいなかったから仕事しやすかったってのはあったかな?」


「……その課長って前言ってた平尾って人だよね?」


「そうだけど」


 そう答えると隣子は運ぼうとしていた食器を置いて、俺の目の前に正座する。


「じ、実は……それなんだけど……えっと……」


 隣子は顔を赤くしてモジモジしている。


「それ、私がやりました……!」


 隣子は照れながら恥ずかしそうにそう言った。


「え……? それってどういう……?」


「望実が困ってたみたいだから消しておいたよ? 望実を苦しめる奴は許さないんだから……!」


 隣子はそう言うと更に俺に近づき、目を閉じた。


「だ、だから、そ、その……ご褒美に頭撫でてほしいなぁなんて……」

 

「お、おう? ……ありがと」


 あまりにも突拍子もないことで俺は理解が追いつかず、言われるがまま隣子の頭を撫でる。隣子が平尾課長を消した? どういう意味だ? 流石に何かのジョークだろう。


「えへへ……幸せだ私。望実のために頑張った甲斐があったよ」


 隣子は嬉しそうに頭を撫でた俺の手を握る。そしてその手を自分の胸へと沿わせる。


 むにゅっと柔らかい触感が手に伝わる。前から思っていたが隣子の胸は大きいわけではないが程よい大きさで、形は綺麗で触り心地も良く、まさに美乳と言える……なんて事を考えている場合ではない。


「り、隣子? どうした?」


「な、なんか望実に触られたら、そ、その……えっと……こ、興奮してきたといいますか……もっと触ってほしいって思ってきて……」


「そ、そうか……ってその前に!」


 俺は隣子の胸から手を離す。


「平尾課長を消したってのはどういう意味……なんだ?」


「疑ってるの? 仕方ないなぁ証拠見せるから見せたら続き、してよね?」


 そう言うと隣子はスマホを取り出し少し操作した後俺に画面を見せる。その画面を見た瞬間俺は驚きと同時に吐き気を催した。

 そこには血塗れで惨殺された平尾課長の姿が写し出されていたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る