■11 これまでとこれから

敷物の上では用意されたお弁当を広げ終わり、それぞれがお弁当を食べ始める。

花見という事もあり、俺も桜を眺めながら愛花の作ってくれた弁当をつまんでいく。




俺はふと梓ちゃんからお弁当を食べてほしいとお願いされていたのを思い出す。

梓ちゃんの方を向くと梓ちゃんと視線が合い、察したのか梓ちゃんはお弁当を持って近づいてくる。


「……和樹さん! どうぞ、お好きなものをお食べください」

「ありがとう梓ちゃん、それじゃ早速お手製のお弁当でも頂こうかな」


梓ちゃんは照れながらもお弁当を差し出してくる。

差し出されたお弁当には可愛らしいサイズのおにぎりに海苔がまかれたものや卵焼きからウインナーなど色とりどりのおかずが揃っていて何から食べていいか正直迷ってしまう。


「私も一口食べてもいいですか?」


すると、近くにいた愛花も梓ちゃんの弁当を見て食べていいかを確認する。


「愛花ちゃんも是非食べてみてください!」


梓ちゃんは軽く承諾していたが、俺はいまだに何に箸を伸ばそうか決めかねていた。


「どれも美味しそうで、何を食べようか悩んでしまいますね」


愛花も俺と同じ気持ちのようだ。




俺はひとまず小さいサイズのおにぎりに箸を伸ばし口の中に入れる。


「……うん! 良い塩加減でめちゃくちゃ美味いね。このシャケの魚も梓ちゃんが焼いたの?」

「はい、朝食用に焼いたお魚の身を入れてみたんですが、喜んでもらえて嬉しいです!」


愛花も卵焼きを選んで食べていたが、非常に満足そうな表情を浮かべていた。


「絶妙な甘さ加減ですね。やっぱり梓ちゃんの卵焼きも美味しいです!」


それもそのはず、梓ちゃんは愛花と小学生の時からの友達で愛花と一緒に料理の腕も磨かれているのだ。


「よくうちに遊びに来てくれた時も愛花と一緒にご飯の用意手伝ってくれていたもんな」


初めはさすがに愛花の友人にご飯の手伝いをさせるのも気が引けたのだが、梓ちゃんもうちの事情を知ってからはできる限りお手伝いをしたいという想いに根負けした感じだ。




「はい! お陰様で私も料理を作るようになってからはお母さんも驚かれていました」


笑顔で答える梓ちゃん。


「梓ちゃんもよく家で愛花と料理を作っては味見をしていたけど、こんなに美味しく料理が出来るようになって尊敬するよ」

「……ありがとうございます! 私も作った料理は和樹さんに食べて貰わないと自信が持てないんです!」


俺は梓ちゃんの家族以外で梓ちゃんの手料理を食べた最初の男性になる訳で、梓ちゃんも作る料理の評価を俺から欲しがるような間柄になっている。




俺は今までの事を思い出しながら梓ちゃんの弁当を食べていると、アリサちゃんも物欲しそうな目でこちらを見ていた。

梓ちゃんにアイコンタクトで確認をとってみるも、頷いてくれたので問題ないようだ。


「アリサちゃんも食べてみる?」


するとアリサちゃんが途端に目を輝かせる。


「いいんですか! 是非食べたいです!」


近寄ってくるアリサちゃんに梓ちゃんの弁当を差し出す。




「あと愛花の弁当も作りすぎちゃっているから、よかったらこっちも食べてね」


ついでに愛花の弁当も一緒に差し出しておく。

アリサちゃんの目の前にはいずれも美味しいお弁当が並べれており、なんか餌付けをしている気分になる。




思い返してみると、中学生の後半に愛花と仲良くなったアリサちゃんも家に来ることはあったが、料理を作る時は基本的には愛花達が作った料理を食べる担当だった。

俺と同じように2人の作る料理に目がないのだろう。


「アリサちゃんのお母さんが作るお弁当とどっちが美味しい?」


俺はちょっと意地悪な質問をしてみる。


「えっ! ん~っと……ん~っと、どっちだろう……どっちも美味しいから比べられないよ!」


めちゃくちゃ悩んだ結果、結局決まらなかったらしい。


「ごめんごめん、少し意地悪な質問だったね」


俺は小さく笑いながら答える。

ただ、愛花の弁当と同等の美味しさを誇るアリサちゃんのお母さんの料理がめちゃくちゃ気になってしまった。

今度是非一度アリサちゃんのお母さんのご飯を食べてみたいものだ。




「アリサちゃんのお母さんって確か日本出身の方だよね、作るもの和食が多いの?」


アリサちゃんはパぁっと顔が笑顔になる。


「お父様がいる時は洋食が多いかな、でも仕事であまり一緒に食べることは少ないからいつもは私が食べたいものを作ってくれるの!」


アリサちゃんはお母さんの話題になるとテンションが上がるな。

多忙なお父さんの代わりにお母さんと過ごす時間が多くなったのだろう。


「食べたいものをリクエストして出てくるのって嬉しいよね」


俺の家も同じようなものなので、妙にアリサちゃんには共感してしまう。




そんな雑談をしていると、周りの集団も盛り上がり始めていた。


「……周りも騒がしくなってきたわね」


豊崎が周りの集団を見ながらつぶやく。


「だな、昼間からお酒とか飲んでるんじゃないの」


俺はそう言いながら集団の方へ視線を向ける。

すると、その集団の中に高橋先生もいることに気付く。


「あれ? 高橋先生だ」

「え、本当?」


すると豊崎も目を凝らして集団を見る。


「たしかに、ほかにも学校で見たことがある人がいるわ。あれって学校の先生集団じゃない?」

「っぽいな」




高橋先生を見たことにより昨日の部活の件を思い出す。


「そうだ! 梓ちゃん、アリサちゃん、多分部活動の部室は用意できるかもしれない」


俺は2人に昨日起きたことを簡単に伝えた。


「……そんな事があったんですね! よかったです!」

「よかったじゃないですか!」


2人は喜んでいたが、豊崎が少し考えこんでいた。


「豊崎、どうかしたか?」

「……昨日帰り道で調べてみたんだけど、部活の申請書を出したからってすぐに部活ができるってものじゃないみたいよ」

「え、それってどういう事だ?」


豊崎は腕を組みながら答える。


「部活の申請書はあくまで『こーいう部活を作りたいです、お願いします』っていう申請をするだけで、その申請書を出した後、生徒会から職員会議にかけられて初めて部活って認められてるものみたいなの」


「……まじかよ」


俺はてっきり申請書を出せばすぐに部活として活動できるものだと考えていたのだが、どうやら違ったようだ。


「でも、会長は部室は確認しておいてくれって言っていたはずだが?」

「それはあくまでも申請が通ればの話じゃないの? まぁでも、会長から言われているのなら部室は月曜日にでも確認しておきましょう」




俺は釈然しゃくぜんとしない気持ちになる。


「……ちょっと俺、部活の申請書を提出した後の流れについてちょっと高橋先生に確認してくるよ」


俺が立ち上がると豊崎は焦りながら止めてくる。


「ちょ、山守君! 今は辞めときなさいよ。高橋先生だって今は週末なんだから仕事の話はしたくないんじゃないの?」

「うっ……、たしかにその通りだな。……今は辞めておくか」


俺は豊崎の言葉にたじろぎ、そのままその場に再度座り込む。




どうやらまだ部活は正式に出来たわけじゃないようだ。


――――――――――――――――

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