■07 生徒会と会長

俺たちは職員室から出て生徒会室へ向かう。

生徒会室も職員室同様に1階にあるので、そんなに時間がかからずに到着した。


「さて、それじゃ入りましょうか」


高橋先生が扉を開けて中に入っていくので俺達もそれに続く。




中に入ると奥の机には女性が座っており、手前に長方形のテーブルを挟むようにパイプ椅子が置かれ3名が座って各々作業をしていた。

俺たちに気付くと奥の机から女性が立ち上がる。


「これはこれは、大勢で何か御用ですか?」


彼女は俺たちに近づきながら訪ねてくる。


「私の要件は頼まれていた書類を持ってきただけよ」


高橋先生は手に持っていた書類を会長に渡す。


「ありがとうございます高橋先生。……それで、この方たちは?」


書類を受け取った彼女は俺たちの方を向いて尋ねてくる。


「えぇ、話を聞くと新しい部活を作りたいみたいなの。空いている部室を使ってもいいかの確認がしたいようよ」


高橋先生は手短に事情を説明すると、彼女は俺たちの方へ一歩踏み出す。




「初めまして、私は生徒会執行部の会長を務めている3年の九条美咲くじょうみさきと申します」

「あ、こちらこそ初めまして2年の山守和樹です」


自己紹介をされたので、思わず俺も自己紹介を返す。


「同じく2年の斎藤樹だ」

「2年の豊崎恵よ」

「初めまして、1年の山守愛花です」


それぞれが軽く自己紹介を済ます。




「高橋先生のおっしゃるとおり、今回新しい部活を作りたいと思っておりまして廃部などで空いている部室を使わせ頂きたいと思っています」


俺は彼女に少々緊張しながら事情を説明する。

それだけ九条美咲という女性は凛とした立ち振る舞いをしており、腰まで伸びたしっかり手入れが行き届いている黒髪と姫カットの前髪が特徴的で神聖しんせいな面持ちをしていたからだ。


「そうでしたか、わざわざご足労おかけして申し訳ありません。新しい部活を作るにはまず部活動の申請書を書いていただく必要ありますが、具体的な活動内容はお決まりなのでしょうか?」


どうやら申請書的なものを提出する必要があるらしい。


「はい。活動内容としては校内の掲示板などにお悩み相談のポスターなどを設置し、学生からのお悩みを募ります。そして届いたお悩みを解決するお手伝いをする部活を考えております」


会長に釣られて俺も話し方が丁寧になってしまう。


「少し変わった部活動をお考えなのですね。部員など顧問の先生などはお決まりでしょうか?」

「部員に関しては今のところ6名は決まっておりますが、顧問の先生に関しては……」


顧問の先生については考えていなかったので言葉に詰まる。




「部活動を行うには必ず顧問の先生を決める必要があります。いない場合は認める訳にはいきませんね」

「……そんな」


いきなり会長から突き放される感覚を感じ、焦ってしまう。


「顧問が必要なら私がなってもいいけど」


すると、高橋先生が手を挙げて申し出てくれた。


「い、いいんですか高橋先生!」

「えぇ、あくまで活動は山守達が主導で動くとしても、私も生徒が抱える問題はあらかじめ知っておきたいし」


なるほど、高橋先生も考えがあっての判断らしい。


「ありがとうございます!」


理由はどうあれ、顧問を請け負ってくれるのは非常にありがたい申し出だった。


「会長、顧問も今決まりました。どうか、空いている部室の利用許可を頂けないでしょうか?」


俺は会長に向き直すと改めてお願いをする。




「……分かりました。ですが、活動内容が少し曖昧ではありますので、を行わせて頂きます。問題ないでしょうか? 」

「はい、もちろんです」


当然の申し出なので、軽く承諾をする。


「それじゃ……国枝くにえださん、ちょっといいかしら」


会長はテーブルの方を向いて話しかけると、女性一人がパイプ椅子から立ち上がる。


「あ、はい会長! なんでしょうか?」


国枝という女性は、俺たちの方へと近づいてくる。


「彼女に山守さんの作る部活動のチェックをお願いしようと思っています。国枝さん、軽く自己紹介をお願いいたします」

「は、はい! 私は2年の国枝くにえだ留美るみと申します。僭越せんえつながら定期的に部活動のチェックをさせて頂きますのでよろしくお願いします!」


国枝さんは俺と同じ2年で、少し落ち着きのない様子の女の子だった。

栗色の髪をした会長と同じく腰ぐらいまで髪を伸ばした女性で、もみあげが肩まで伸びておりに着けている銀色のヘアピンが特徴的な女性だ。


「よろしくお願いいたします国枝さん。何かあれば何でも言ってください。改めさせて頂きます」

「いえいえ、こちらこそお手柔らかにお願いします!」


俺たちはお互いに軽く挨拶を交わす。




「それでは、後ほど部活動の申請書の提出をお願いいたします。部室ですが、将棋部の部室が空いていたはずです。その部室を3階にあるので、あとで確認をしておいてください」


俺たちは、そのあと高橋先生と一緒に部活動の申請書の作成を行い、無事に生徒会に提出を行ったのだった。

生徒会室から出た俺たちは改めて高橋先生にお礼を言う。


「高橋先生、今日はありがとうございます。改めて部活の顧問としてよろしくお願いします!」

「そんなかしこまっちゃって、全然問題ないわ。私も生徒の悩みには興味があるし、山守たちも顧問が必要だった。利害の一致というやつよ」


ニコっと笑顔を浮かべて謙遜しながら答える高橋先生。


「それじゃ、私はまた用事があるから失礼するわね。週明けにでも部活動について話し合いましょ」


そう俺たちに伝えると高橋先生は職員室へと歩いていった。


「はい! 来週もよろしくお願いいたします」


俺は後ろ姿の高橋先生に向かって言うと、高橋先生は歩きながら片手をあげて反応してくれた。




「……一件落着ってとこだな」


樹は高橋先生を見送り終えると呟いた。


「……ふうぅぅぅ」

「お疲れ様、山守君! 何とか話がまとまってよかったわね」


気が抜けたのか、俺はだらしないため息が出る。


「兄さんお疲れ様です!! 見ていてとても頼もしかったです!」


愛花は何だか興奮気味で話しかけてくる。


「ありがとう愛花。今日は美味しい晩御飯でも作ってくれると嬉しいよ」


疲れ切った俺は欲望を垂れ流してしまう。


「はい! その為にも帰りに一緒に買い物にいきましょう!」

「おぅ」




「それじゃ、暗くなる前に帰りましょ?」

「そうだな。私も宿題をしないといけないからな!」

「あぁ、今日は付き合ってくれてありがとう! それじゃ帰るとするか」


俺は2人に話しかけながらしみじみと今日を振り返る。

何とか部活動の申請まで出来たが、これは俺一人じゃ実現できなかっただろう。

樹に豊崎、愛花に高橋先生全員がいたからこそ話がまとまったんだ。


「兄さん?」


そう考えていると愛花が俺の顔を覗いてくる。


「あ、ごめんごめん。それじゃ愛花も帰るか」


そう愛花に微笑み返すと、愛花も笑顔で答えてくれる。

俺達は靴を履き替える為に昇降口へと向かうのだった。


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