第21話 トルスタン1

戦いの後、オアシスで束の間の休息を取った後、私達はまた砂漠を進みはじめました。


「このまま先に行けば、トルスタンという街に出る。まずは、そこに行こう」

ラルクの言葉に、私達冒険仲間パーティーは、次なる街を目指しました。


すると、30分程経った頃。


「♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎」


私の服の中から、聞きなれないメロディーが流れ始めました。

慌ただしい戦闘で、すっかりその存在を忘れていましたが、女神から渡された小型の石板が鳴っているようです。

私はボトムから、例の石板を取り出すと、中央に嵌め込まれたサファイアの石に指先で触れました。


「あ、もしもし?私だけど」

美声ながらも、能天気な声が石板から響いてきました。

「どちらの私でしょうか?」

「……ちょっと、何よ、ソレ!女神を何だと思ってるわけ?」

「ご用件は何でしょうか?」

「やだ、何か怒ってる?」

「暫くかけて来ないでね!と一方的に切ったのは、そちらですが?」

「……もう、やっぱり、怒ってるじゃないっ。ごめんね?あの時は、10日間連勤で、寝不足でシャワーも浴びれてなくて、ちょっとイライラしちゃってて」

「別に怒っていませんよ」

「ほんと?ありがとう!代わりにっていうわけじゃないんだけど、ここだけの話、すごいお得情報を今から授けちゃうね」


部分的に会話を切り取ると、まるで詐偽の商法のような響きです。


「今はコルド砂漠から、トルスタンの街に向かってる頃よね?それで、その街の北西にある山に、伝説の魔剣があるの。それを装備出来れば、スパスパッと面白いほど魔獣が斬れちゃう優れものなのよ!」

「何だか、怪しい話の口車に乗せられてるような口振りですが、確かな情報なのでしょうね?」

私が疑うような声色で言うと、ヴァルキュリアは、息を荒げました。


「もうっ、女神を信じなさいよ!?」

何となく嫌な予感がするのは、気のせいでしょうか。

「……それで、その魔剣とは何と言う剣なのですか?」

「ダーインスレイヴっていう剣よ。切れ味抜群だからねっ」

「……分かりました。一応行ってみます」

「なに、一応って?ちゃんと行ってよね!?」

この女神に、言われたくはありません。


「じゃあ、キャッチが入ったから切るわね。また掛けるから」

そう言うと、またもや一方的にスマホもどきの通信が途絶えました。


「もしかして、女神からか?」

ラルクの問いかけに、私はスマホもどきを服に仕舞いながら、頷きました。

「はい。次は、魔剣ダーインスレイヴを取ってこいとの指示を受けました」

「何?ダーインスレイヴを!?」

ラルクの驚きに続き、ジルも確認をしてきました。


「本当に、女神がそう言ったのか?」

「はい。間違いなく」

私の言葉に、ジルが渋い顔で言いました。


「その魔剣を手に入れるのは、下手な魔獣と戦うより、困難だぞ」

「どうしてですか?」

「ダーインスレイヴが魔剣と言われる所以は、血に飢え、手にしようとした物全てを血祭りにあげる呪いの剣だからだ」

「……」

嫌な予感が、120%的中したようです。


「手に入れようとした者は、今まで誰一人として帰ってきたものはいないって言われてるぜ」

ダメ押しの注釈をラルクがつけてくれました。


「……恐ろしい剣ですが、ヴァルキュリア様のお導きとあれば、何かお考えがあるはず。今日はトルスタンへ行き、明日、魔剣のある山を目指しましょう」

後方を歩くアリアが、言いました。


「や、やっと蜥蜴王バジリスクを倒したと思ったところでしたけど、また難題ですね……。で、でも勇者様がいらっしゃれば、きっと今度もクリア出来ますよねっ」

全幅の信頼を置いているような澄んだ瞳で、ロイが見上げてきました。


今のところは、その魔剣とやらの対処法が全く掴めませんが……。


その後、何体かの砂漠特有の魔獣達を倒しながら、日が傾き始める頃に、トルスタンの街に着きました。

砂礫の中を1日歩いたため、緑の多い、この街に足を踏み入れただけで、少し心が安らぎます。

砂漠を抜けたとはいえ、ここも気温が高いため、行き交う人々は、薄着の装いです。


頭の上に、南国を思わせるフルーツの籠を乗せた若い女性が、透けるような薄布の服をはためかせながら、私達の横を通りすぎていきました。

「目に優しい街だね」

オーディンが、その女性を目で追いながら、嬉しそうに目を細めました。

「とりあえず、今日の宿屋を探すか」

ラルクが辺りを見回しながら、言いました。


商業が盛んな街らしく、山盛りに盛られた野菜やフルーツ、色とりどりの布で織られた服や、装飾品などが売り買いされ、歩き見るだけで、楽しめます。

南国らしい鮮やかなピンクと黄色で織られた薄い女性用の服が目には入りました。


ふと、お嬢様を思い浮かべました。

お嬢様がお召しになられたら……いや、趣味じゃないと言い、服を放り投げそうですね。

小さく1人で笑った後、お嬢様は現在どうされているのか思いを馳せました。


元の世界にいたなら、きちんと毎朝起きて、サボらず、学校に行かれているのだろうか。

制服の上着の下に、ファンキーなTシャツを着込んでいないだろうか。

お弁当が足りないからと、他のお嬢様のお弁当にまで、手をつけていないだろうか。

私の代わりの送迎用の運転手をまいて、困らせてはいないだろうか。

数百万するバイオリンを叩き割ってはいないだろうか。

夕方時になって、とんでもないメニューを無茶振りして、シェフを引きこもりにさせてはいないだろうか……。

考え出すと、心配は、つきません。


あるいは……。

日が落ちてゆくトルスタンの町並みを見つめながら思いました。


同じく、この異世界のどこかで……と。


そう思った時、ラルクが入り口から少し入った建物から再び出てくると、言いました。

「今夜は、この宿屋に泊まろうぜ」

見ると、白壁の建物の各部屋に、外に面したバルコニーがあり、赤やオレンジの鮮やかな花々が鉢植えで置かれた美しい宿屋があります。


「わぁ、とっても綺麗な宿ですね~!」

ロイが弾んだ声で言いました。

「うん、なかなか美しい宿だね。美を司る僕にぴったりだよ」

オーディンが長い銀髪をかきあげながら、納得したように頷きました。

「では、入ろう」

ジルの言葉に、皆が南国の宿屋へと足を進めました。

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