第19話 蜥蜴王《バジリスク》討伐6
「なっ……!?」
「えっ!?」
「カキザキ……戦闘中に、何の冗談……」
「冗談ではありませんよ。言った言葉そのままです」
ラルクの問いかけを遮って、答えました。
「う、嘘、ですよね……勇者様……?」
震える声で、ロイが言いました。綺麗な碧眼が、今は驚きと悲しみに揺れています。
「嘘ではありませんよ。本当です」
私は、静かに言いました。
「……じゃあ、テメーが確実に逃げ切れるために、ありったけの魔法を使わせたってことか……?」
「はい、その通りです」
静かな怒りを込めたラルクに、事も無げに言い捨てました。
「
「ゆ……者、様……っ」
私への魔法詠唱で、力を使いきったからか、アリアは地面に崩れ、両膝をつきました。
「アリアさん!」
ロイが、彼女に駆け寄り、その体を支えました。
「ゲッゲッゲッゲッ……!!」
「では、皆さん。御武運を」
私はさらりと口にすると、
「クソッ……!こんなことあんのかよ!?」
握りしめた拳を震わせながら、ラルクが苦々しく言いました。
「仲間を見捨てる
その時。
「ギィェェェェ…………ッ!!」
おそらく、オーディンのかけた魔法の効力が、切れてきたのでしょう。
「……くっ!」
それを庇って、ジルが風の速さで移動し、
「冷静になれ。初めからいなかったものと思え!」
長い尾を剣で制止ながら、ジルはラルクに言葉を投げ掛けました。
「……許せねぇっ。アリアがこんな状態なのに……っ!」
ジルの背中に守られながら、ラルクが絞り出すように言いました。
私は、皆さんが
勝ち目のない勝負など、意味のないものです。
お嬢様にも以前「柿崎って、何で、そんなに冷静なの?」と言われたことがありますが。
執事とは、様々なトラブル発生時に冷静な判断を求められる職種だからです。
「……
押し殺したような呟きを吐いた後、ラルクはジルの背後から、前へ飛び出しました。
「止めろ、ラルク……!!」
ジルの制止の声も聞かず、ラルクは単身、
「
叫びつつ、腕を振り上げ、長く鋭利な
しかし、防御力を下げる魔法の効力も切れたのか、傷一つ付けられず、それどころか、パキッと、銀色の
「くっ……!」
ラルクの顔が歪みました。
そして、その直後、「ジュッジュッ!」と焼け焦げるような音と共に、ラルクの周囲に張り巡らされた守護壁が、
「あっ……いけない!
アリアから、手を放し、ロイが詠唱しました。
ラルクの目の前に青い光の壁が現れ、バシュッ!という音と共に消えました。
「アリアを助ける……!」
ラルクは、腰から
しかし、
「ギャギャギャギャ……ッ!」
嘲笑うかのような声を上げながら、
「くっ……!」
ラルクは右手に掴んでいた
しかし、鋼鉄のような皮はびくともせず、刃の尖端が欠けてしまいました。
そして、ラルクの周りの空間に、「ジュジュッ!」と焼け焦げるような音と共に、仄かな煙が立っています。
「
ロイが再び詠唱しましたが、ラルクの前に淡い青の光が現れたものの、弱々しく、すぐに空気に溶けていきました。
「さ、さっき勇者様に……使った魔法で、もう……魔力が……っ」
ロイは泣き出しそうな表情で、小さく言いました。
「み……皆さん……逃げて、くだ……」
そこまで口にすると、アリアは力尽き、地面にそのまま倒れました。
「アリアさん!しっかりしてください!」
ロイが再びアリアに駆け寄り、その体を胸に抱きました。
「……全滅か」
ジルの握っていた剣先が、地面に落ちていきました。
ラルクの周りの空間に張られた防御壁は、徐々に溶かされ、
「……クソッ!」
彼の瞳に、苦しさと、裏切られた悔しさが滲んだ、その瞬間。
私は叫びました。
「
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