有能すぎる執事が、異世界無双!!戦女神に翻弄されながら、お嬢様を探します。

月花

第1話 プロローグ






「私が、世界中に散らばっても、見つけ出してくれる?」


その言葉に、私は、どう答えたのなら、正しかったのでしょうか?




























「全っ然分かんない」


耳慣れた、いかにもメンドクサイといった気持ちを包み隠そうともしない声が、すぐ側から漏れてきました。


「お嬢様。そのような言葉は、一度よく考えてから、発する言葉でござ……」

「だ~か~ら。考えても分かんないって言ってんの」


メンドクサイが、さらに二乗された言葉が、被せ気味に漏れてきます。


「一体、授業では何を吸収されておられるのでしょうか?なぜ、私は、執事と家庭教師のダブルワークを課せられねばならないのでしょうか?」

「ちょっ……丁寧にディスるの、止めてくれない?」

「ディスってなど、ございません。事実を述べたまでです」

「あぁ~、もうっ、そのしゃべりが余計にイラつく~っ!」


「美女と野獣」に例えるならば、どちらかというと、野獣寄りな荒々しさで、髪を振り乱しながら、お嬢様は叫びました。


「全っ然ダメだわ、気分が乗らないっ。気分転換に、お花見よ、お花見!」


そう言って、お嬢様は、教材を床に投げると、性別でいうところの男性である私には目もくれず、お召しになられていたワンピースを脱ぎ捨て、クローゼットを漁り始めました。

ちなみに、私は反射的に目を背けておりますので、お嬢様のあられもないお姿は全く見ておりません。


「準備は整いましたでしょうか?」

数分経って、私は背を向けたまま、お嬢様にお聞きしました。

「見て良し」

その言葉に、振り返った私に、軽い絶望が襲いかかります。


「お嬢様……そのTシャツは?」

「え、これ?先輩からもらったヤツ」


そう言って笑ったお嬢様の服装は。ジーンズは良いとして、その上には、黒地に白抜きの「Fuck you!」の文字が、はっきりと浮かび上がるTシャツでございました。

一体どういった方向性の先輩なのでしょうか。


「……」

執事とは、様々なトラブル発生時に冷静な判断を求められる職種でございます。


「お嬢様。春とは言え、午後はだんだんと肌寒くなってまいります。こちらのカーディガンもお召しになられては、いかがでしょうか?」


私はさりげなくクローゼットから、ふわっとしたシフォンのカーディガンを取り出すと、素早くFuck Tシャツの上に羽織らせました。


「まあ、それもそうね」


幸いにも、すんなりと聞き入れたお嬢様に、ほっと安心いたしました。

可愛らしいシフォンのカーディガンのおかげで、Fuckの文字が良い感じに隠され、「何か白のロゴ、入ってるな」程度に留めることが出来ました。


「それでは、息抜きに、公園にでも参りましょうか」

もちろん、私はファンキーなTシャツに着替えることもなく、仕事着であるスーツ姿のまま、お嬢様と部屋を後にしました。



豪奢な一条邸を出て、お嬢様と私は、近くにある大きな自然公園へとやってまいりました。平日の夕方に差し掛かる時間でしたが、季節柄、多くのお花見の方々で賑わっています。薄紅色の桜が満開に咲き乱れ、深緑の大きな池とのコントラストが大変美しいです。


「やっぱ息抜きは、いいわね!」


息抜きというよりは、現実逃避のような気がいたしますが、それはさておき、お嬢様のお心も、ご満足のようです。


「あ、柿崎。あそこの茶店で、お団子買ってよ」


園内を歩き出して、まだ物の5分と経っていないのに、お嬢様が、そう言い出しました。「花より団子」という言い回しを見事なまでに体現なさる、お嬢様です。


「かしこまりました。人気のお店ですので、まずは団子の在庫確認をして参ります」


その茶店は、昭和時代から続く、この公園では、名物のお店です。食べ歩き雑誌にも、よく載っているため、わざわざ遠方からのお客様も足を運ばれる人気ぶりです。

店外に置かれた、朱い傘の広がる、いくつかの席をぬって、古風な佇まいのお店の中へと入っていきました。


「お忙しいところ、大変申し訳ありません」

声を掛けると、カウンターの奥から、初老の店主が出てまいりました。


「はい、らっしゃい!」

「お団子を頂きたいのですが、まだ残っておりますでしょうか?」

「団子ね。えぇっと……みたらしが、もう売り切れてて、きな粉と、ずんだと、あんこのなら1本ずつあるよ」


もうすぐ、夕飯ディナーであることを考えると、団子は1本に留めるのが適量。


「それでは、1本頂けますか?」

「味は?」


口に入るものなら、何でも食すのが、お嬢様です。


「お任せします」

「お任せって……う~ん、そうだな、俺の好みは、ずんだかなぁ」

「では、それで」


店主は、1本にも関わらず、丁寧にパックに入れてくださいました。私は、代金をお支払いして、それを受けとると、池の側のベンチに座り、忙しくスマホをいじるお嬢様の元に行きました。

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