第二章 商業都市ベルベスク
第28話 真、少女助ける
真とナナシは、【商業都市ベルベスク】を目指していた。周りは何もない草原である。そこをとぼとぼと並んで歩いている真とナナシ。
「ねぇ、まだ着かない?」
「ああ。もう少しかかるな」
太陽の光が容赦なく熱波となって真とナナシに降り注ぐ。汗が止まらない。
「真」
「なんだ?」
「喉かわいた」
「ほら」
真は、ナナシに水の入ったひょうたんを渡した。
ごくごく。
「生き返った」
「そりゃよかった」
ナナシは、水の入ったひょうたんを真に返す。真もひょうたんに入っている水をごくごくと飲む。
「ふう。生き返る」
ナナシの顔が赤くなる。
「間接キス」
「うん?なんか、言ったか?」
「別に」
「そうか」
真は、額の汗を拭う。
「それにしても暑いな」
真は、恨めしそうに太陽を見上げる。
「真、前から魔物の群れが来る」
「気配感知で知ってる」
真は、武器屋で買った剣を抜く。ナナシも杖を構えようとするも、真が手で制する。
「俺一人で十分だ」
「そう」
ナナシは、後ろに下がる。
魔物は、オオカミ系の魔物で、群れで行動する。
真が、剣で、飛び込んできた魔物を縦に切り捨てる。魔物は、縦に別れ、ポトリと地面に落ちる。
真を警戒をし、間合いを取る魔物の群れ。
「来ないならこっちから行くぞ」
真は、剣を携え、魔物の群れに突っ込む。その圧倒的力の前に、魔物の群れは、なすすべなく蹂躙されていく。
次第に減っていく魔物の群れ。
一匹の魔物が、真の死角から飛び込んでくるが、真の気配感知で、切り捨てられる。
魔物の群れは、真の力に恐れをなし、飛び込んでこなくなる。
そこから先は、もはや戦いでなく蹂躙。魔物達は、ただの一匹すら逃げることも叶わず、まるでそうであることが当然の如く、切り捨てられ、骸を晒していく。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに五分とかからなかった。
剣を鞘に納めた真は、首を僅かに傾けながら、周囲の死体の山を見やる。その傍に、トコトコとナナシが寄ってきた。
「……どうしたの?」
「魔物とはいえ、殺すことに多少抵抗があってな」
「襲ってきた。仕方ない」
「頭ではわかってるんだが、こいつらも生きるために必死だと思うとついな」
「真、優しすぎる」
「そうかな」
そう言い、真は、花を一輪探して、魔物の死体の山の前に置いた。
「すまない。俺にはこれぐらいしかできない」
そう言い、真はくるりと踵を返す。
「先へ急ごう」
「うん」
二人は、魔物の死体の山を背に、前を歩いていく。
しばらく歩いていると、馬を売っている行商人がいた。
「ちょうどいい。馬を買おう」
「それがいい。歩き疲れた」
真とナナシは、行商人に歩み寄る。
「馬を二頭、売ってくれ」
「いいよ。好きなの選んでくれ」
真とナナシは、馬小屋を見て回る。真が、隣にいたナナシに尋ねた。
「どれがいい?」
「これがいい。足が早そう」
ナナシが、肉つきの良さそうな馬を指差す。
「なら、俺はこれでいい」
真は、足の筋肉の良さを見て、決めたようだ。
「二頭で三銀貨です」
行商人に、三銀貨を手渡す真。
「まいどー」
ナナシは、馬にまたがろうとするも、背が小さいのでうまくいかない。
見かねた真は、ナナシを馬に乗せてやる。ナナシは、礼を言う。
「ありがと」
真は、自分の馬に乗る。
「さあ、商業都市ベルベスクまであと少しだ」
「うん」
真とナナシは、並んで馬を走らせた。
しばらく馬を走らせていると、それほど遠くない場所で、魔物の咆哮が聞こえてきた。先程のオオカミ系の魔物より強そうだった。もう三十秒もしないうちに会敵するだろう。
次第に魔物が鮮明となってくる。一旦、馬を止めて、様子をうかがう真とナナシ。魔物は、こん棒を持った青鬼だった。角が一本額に生えている。体長は三メートルほどある。誰かを襲っているようだった。
真は、襲われている人物に注目した。その人物は、半泣きで逃げ惑っていた。歳は十二、三ぐらいの少女である。
「少女が襲われているな」
「助けるんでしょ?」
「ああ」
「援護は?」
「いやいい」
そう言い、真は、少女を助けるため、駆け出す。少女が、駆け寄ってくる真に気づき、叫んだ。
「だずげでくだざ~い!ひっーー、死んじゃう!死んじゃうよぉ!だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」
鼻水と涙でぐしゃぐしゃになりながら、駆け寄ってくる真に助けを求めた。
「ふせろ!」
真の大きな声に、少女は、ガバッとしゃがんだ。
真の剣から、闇色の黒い斬撃が、飛び出し、しゃがんでいる少女の上を物凄い速さで通過し、青鬼のこん棒を持っている腕をスパッと切り下ろした。青鬼の腕から緑色の血が噴き出す。痛さのあまり悲鳴を上げる青鬼。
「グギャァァァアアア!?」
少女は、青鬼の悲鳴に、怖くて顔を上げることができない。
「すまない。青鬼」
そう言い、真は空高く跳躍し、上空から振ってきて青鬼を一刀両断した。青鬼は、悲鳴を上げる暇もなく、縦に分かれ、血を噴き出す。残骸が、左右に砂ぼこりをあげて、落ちる。
剣を鞘に納める真。
少女は、恐る恐る、顔を上げて、真の方を見やる。
「大丈夫か?」
真が、少女に近寄る。ナナシも駆け寄ってくる。少女の外見は、ショートの黒髪で、そばかすがあった。お世辞にも可愛いとは言えない。いたって普通の少女だった。
「怪我はないか?」
心配そうに見つめる真に、少女は「はい」と答え、起き上がる。
「助けていただきありがとうございました!」
少女は、頭を下げた。
「こんな所でなにしてたんだ?」
真の質問に、少女は、苦笑いした。
「実は薬を作るのに使う薬草採集に来てて」
「それで、採集してる所に魔物が襲ってきたわけか」
「はい」
「気をつけて採集した方がいい。この辺は魔物が多そうだ」
そう言い、真は、離れていく。ナナシも真の後ろについていく。
「あの!」
「うん?」
真が、少女の呼び掛けに、立ち止まり、振り向く。
「私は商業都市で薬屋を営んでいるジョゼ・クロニクルと言います!お礼がしたいので、ぜひ、うちの店に寄ってください!」
ジョゼの言葉に、真とナナシは顔を見合わせるのであった。
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