第6話 真夜中の出会い
真は、自分の部屋の天蓋付きベッドで、仰向けに寝転がっていた。外はもう日が落ち真っ暗だ。真っ暗の部屋の中に月明かりがさす。真は、昼間での事を思い出していた。
〝お前は何者だ?〟
ワルドの言葉が脳裏を反芻する。
「こっちが聞きたいくらいさ」
真は、寝返りをうつ。
ポトリ
扉の隙間から何か落ちる音が聞こえてきた。皆寝静まっているので小さな音でもよく聞こえる。
「なんだ?」
真は、天蓋付きベッドから起き上がり、扉の前まで歩く。ふと、扉の前に白い手紙が落ちているのを見つけた。誰かが扉の隙間から入れたのだろうか?真は、白い手紙を拾い、それを読んだ。
手紙にはこう書かれていた。
〝深夜、庭園にて待つ。もし来なければお前の秘密をばらす〟
「俺の秘密……まさか、ワルドさんとの話を聞かれていた?」
真は、この手紙の主が誰なのか見当もつかなかったが、あの場にいたワルドの部下かもしれないと思った。ここで思案しても仕方がないと考えるのを止め、取り敢えず、指定された庭園に向かうことにした。
その頃、ランドルフ王子は、寝室の天蓋付きベッドにて、仰向けに寝そべり、ボーッと天井を見上げていた。部屋は真っ暗だ。月明かりが、窓から差している。
脳裏には、玉座の間にて、初めて見た伊織の顔が、思い浮かんでいた。
「伊織と言ったか……あぁ、余は、余は……どうすればいいんじゃ」
伊織のことで悶々とするランドルフ王子は、中々、寝つけずにいた。
完全に一目惚れしており、ランドルフ王子にとって、初めて経験する初恋というやつだ。
「どうにかして、余のものにできぬものかのう」
ランドルフ王子は、妄想の世界に突入する。
妄想シーンスタート。
舞台は、新婚生活。
二人っきりで、食事を取っている。
伊織が、箸で、「ランドルフ王子、あ〜ん」とランドルフ王子の口に料理を差し出す。
ランドルフ王子は、美味そうに、料理を頬張る。
「伊織の手料理は最高だなぁ」
「ふふ。今夜は寝かしませんよ」
伊織の意味深な言葉に、ランドルフ王子は、鼻息を荒くして、舞い上がる。
「はは。こいつ〜。余もそちを寝かせんぞ〜」
ランドルフ王子が、そう言い、伊織に唇を近づけようとし、押し倒した。
実際は、枕に自身の唇を押しつけていた。
ゴンッ!
ランドルフ王子は、床に転げ落ち、後頭部をうちつけ、失神した。伊織との熱々妄想シーンはあえなく終わりを告げるのであった。
庭園までやって来るも、手紙の主はまだ来てないようだった。庭園は家一個ぶん位の広さがある。中央に噴水があり、噴水を囲むように花壇が並んでいる。花壇には色々な花が植えてある。ヒマワリ、薔薇、タンポポに似た花などが所狭しと花壇を埋め尽くしていた。
ガサガサと茂みの向こうで何かしらの音がした。誰かが庭園にやって来る気配がし、技能:気配感知を使うと、一人でこちらに歩いてくることが分かった。今はしょぼい気配感知だが、レベルが上昇すると索敵範囲を広げることができるらしい。今は精々半径十メートルが限界だ。
真は、物陰に隠れてここにもうすぐやって来る人物の様子を伺うことにした。
じっと、物陰から様子を伺っていると、なんとやって来たのはドレス姿の金髪美少女だった。真にとって見知らぬ人物。とても呼び出した人物とは思えない。しかしどこかで見覚えのあるような人物だと記憶を探るもわからない。もう少し様子を伺うことにした。金髪美少女は花壇の前にしゃがみこみ、何かを語っていた。真は、近くに接近して声を拾うことにした。
物音を立てず、物陰に隠れながら声が聞こえる距離まで移動する。そして、金髪美少女の独り言に耳を傾けることにした。
「お父様は一体どこまで戦争を拡大するつもりなのかしら。戦火は拡大し軍事費用のため税金は上がる一方。このまままでは民が疲弊し餓死者が増えてしまう。私はどうすれば。はぁ」
真は、この独り言からこの人物の当たりをつける。
(思い出した。玉座で王妃の隣に座っていた王女。確か名前はリリーナ)
真は、手紙の主ではないと確信し、この場を離れようと体を動かした。
バキッ!
真は、その場を離れる際、足元にあった枝を踏んでしまった。
「誰ですか! 私は第一皇女リリーナです! 観念して出て来なさい!」
王女が、立ち上がり、音のした方に叫んだ。
(しまった。どうする)
真は、出るかこのまま去るか迷った。
「出で来ないなら叫びますよ」
王女の呼び掛けに観念した真は、姿を現すことにした。もし叫ばれて兵士でも呼ばれた場合、最悪不審者と間違いられ、ステータスプレートを調べられでもしたら闇魔法のことがバレる危険性がある。それは避けねばならなかった。
真は、物陰から起き上がり、手を挙げて王女の前に進み出た。
「俺は怪しい者ではありません」
「あなたは?」
「俺はあなた方に召喚された異世界人です」
「あなた異世界人なの?」
「はい。そうですが?」
「私、一度、異世界人の方とお話して見たかったのよ!」
王女リリーナは、真に詰め寄り、手を握って懇願した。
「私に異世界の話を聞かせて欲しいの!」
真は、目の前にいる王女の甘い香りに、無意識に酔いそうになる。頭を振り払う真。
「いいですけど」
「本当!」
「まず俺達の世界には、空飛ぶ乗り物や早く動く乗り物があります。科学技術といって……」
それから真は、自分の世界のことをリリーナに語っていった。
「そんな世界があるなんて信じられまえせんわ」
話を聞き終えたリリーナがそう答えた。
「俺も同じさ。この異世界に来てからというもの、魔法や魔族やらで信じられない光景ばかりだ。たぶん、王女さんが俺の世界に来て、魔法や魔族などの話を俺にしても、信じられなかったと思う」
「いつかあなたの世界に行ってみたいものです」
「まぁ、今のところ、帰る手がかりすらないからな。もし、手がかりが見つかって帰ることができなら、王女さんも一緒に来るか?よかったら案内していいぞ」
「嬉しいお誘いですが、王女としてそれはできません」
「そうか」
リリーナが、夜空に広がる星ぼしを見上げた。
「星が綺麗ですね」
リリーナに釣られるように、真も夜空を見上げた。
「そうだな」
その時、流れ星が次々と落ちていく。
「あ、流れ星です!」
リリーナが、両手を組み、願い事をする。
「どうか、早く戦争が終わり、民の皆さんが安心して過ごせる世界になりますように」
流れ星が見えなくなる。
「そう言えば名前聞いてませんでしたね」
「ああ。俺の名前は渡部真だ」
「今日は話を聞いてくれてありがとう」
「いや、俺も久しぶりに人と長話ができた」
「それじゃ」
リリーナ王女が、離れるようと背を向けた瞬間、真はリリーナを抱え、後ろに飛び下がる。元いた場所に剣が刺さっていた。茂みから鎧に身を包んだ人物出てくる。顔は仮面に覆われており、誰かはわからない。
真は、怯えた王女を降ろして、その鎧の男を見据えた。
「誰だ、お前は?」
「……」
仮面の男は、無言で剣を拾い構える。
「リリーナ、下がっていろ」
「はい」
真は、リリーナを後ろに下がらせる。仮面の男が、〝縮地〟を使い、一気に真との間合いを詰めてくる。真は、避けるのは容易いが、後ろにいるリリーナに危害が加わるかもしれないと思い、避けるのを止め、〝縮地〟で仮面の男に突っ込む。仮面の男が突進してくる真に、剣を振り下ろす。真は、頬すれすれで剣撃を避ける。振り下ろされた剣が地面に突き刺さる。
真は、仮面の男の腕を持ち、ともえ投げで上空に投げた。仮面の男はくるくると空中で回転し、地面に着地する。再び、剣を構える仮面の男は、縮地で間合いを詰めてくる。真は、地面にあった石を拾い、仮面の男目掛けて投げる。石は、見事に仮面の男が剣を握っている手にピンポイントで当たる。
仮面の男の手から剣が地面に落ちる。それを見た真は、縮地を使って、一気に仮面の男との間合いを詰めて、仮面ごと顔面を、〝剛力〟で強化した右拳で殴った。仮面の男は、後方に吹き飛び、地面に仰向けに倒れた。
「やったのですか?」
後ろの方にいたリリーナが、恐る恐る真に尋ねた。
「いや、まだだ」
真の言葉通り、仮面の男は、ゆっくりと起き上がる。
ピシッ
仮面にヒビが入る音が響く。咄嗟に仮面の男は、手で顔を隠す。そして、正体がバレるのを恐れた仮面の男は、茂みへと逃げていった。
「ふう。取り敢えず、助かったな」
真は、敵が去っていったことに安堵した。リリーナが駆け寄って来る。
「あの、お怪我はありませんか?」
「ああ問題ない」
「ここ擦りむいてますよ」
リリーナが、高そうなドレスの裾を躊躇なく破り、真の二の腕に巻いてくれた。リリーナの綺麗な生脚が現れ、真は思わず頬を赤くして顔を逸らす。
「折角のドレスを。すまない」
「いえ、気にしないで下さい」
「それより、あの仮面の男は一体なぜ真さんを?」
「さあ。わからない。まだ仮面の男が彷徨いているかもしれない。部屋まで送ろう」
「あ、すいません」
真は、リリーナを部屋の前まで、警戒しながら送った。
「それではまた」
「ああ」
リリーナは、部屋に入っていった。見届けた真は、自分の部屋に戻っていった。
その様子を物陰から伊織が偶然見ていた。
「渡部君? なぜ王女と?」
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2021年11月2日。0時00分。更新。
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