オレがいた店の風俗嬢の話をしよう。

板野かも

はじめに

 ビッチの話を聞かせてくれって、アイツは唐突にオレに言ってきやがった。

 アイツってのはオレがずっと前からつるんでる男だ。コンビニでバイトしながら脚本家になる学校とやらに通ってるらしいが、二十五を過ぎて未だ童貞の、どうしようもねえ野郎さ。

 そいつが今度任された舞台の脚本で、コテコテのビッチ女を書かなきゃならねえらしい。

 女経験ゼロの自分にそんなキャラの引き出しがあるわけねえ、って、オレに泣きついてきたわけさ。


 やれやれ、だからってオレに頼むかね。

 オレが知ってるのは風俗の女だけだぞ。

 風俗の女ってのは、つまりセックスを仕事として割り切ってるヤツらってことだ。

 童貞野郎が想像するような空想上のビッチのモデルにできるかどうかは、だいぶ怪しいんじゃねえかな。


 まあ、そうは言っても、十年来のダチに泣きつかれて、焼鳥とビールまで奢られたら断れねえ。

 それがお望みなら、オレがいた店の女の子たちの話を聞かせてやろうじゃねえか。


 ただ、まず、風俗イコールビッチって誤解は解いておかなきゃならねえ。


 そりゃ、こういう業界で仕事してたら、経験人数百人超え、二百人超えなんて女とはいくらでも出くわすさ。

 だけどそういうオープンなビッチが風俗嬢になりたがるって話はあまり聞かねえな。

 そういう女の昼の顔はキラキラ系女子大生だったりバリキャリOLだったりするもんだ。Facebookの友達が軽く千人を超えてたりするヤツらばっかだぜ。そうなると、セックスが好きだからってわざわざ風俗嬢なんかにならなくても、いくらでも周りに相手はいるってことさ。

 それに、そういう女どもが体を売りたきゃ、もっと稼ぎやすい手段が別にあるんだ。今流行りのパパ活とか、ウェイ系パーティで知り合った若手経営者様の愛人に収まるとかな。

 だから、そういう女どもがオレの勤める店に面接を受けに来るってことは、ほとんどなかったのさ。


 だいたい、世間でよく言われることだとは思うが、好きなことをそのまま仕事にするってのはあまりオススメできないんだぜ。

 オレだってそうさ。風俗店で働いてたのはカネのためと割り切ってただけ。オトナってそういうことじゃねえか。

 アイツも折角アタマは良いんだから、いい歳して物書きの学校で夢を追うのなんざ諦めて、さっさと就職して親を安心させてやればいいのにな。


 おっと、前置きが長くなりすぎたな。そろそろ話を始めようか。

 繰り返しにはなるが、話の前に一つだけ言っておくことがある。


 絵に描いたようなコテコテのビッチなんざ、現実には一人もいねえってことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る