23 王城脱出・序章
「っつーわけで、俺はもう知らない。こんな国なんざ知ったことか。魔王にでも魔族にでも勝手に滅ぼされてろ。俺はこの国を出る。むしろ大陸から出たい。あのデブから少しでも離れたい」
どうやら雪の怒りは相当なようだ。簡単なことのあらましを説明した後もずっと黒いものをぶつぶつと呟き続けている。
「……どうする?」
テーブルに肘を乗せて手を組んだまま、何かを呟き続けている雪を横目に、やや呆れた様子の仁が三人を見た。亮と廉は顔を見合わせ、肩を竦めている。
「決まっているだろう。早くここから出る計画を練るぞ。明日の夜には出る」
「「はぁっ!?」」
「随分急だね〜」
やけにキリッとした顔で言い放った貴史を、勢いよく首を回転させた亮と仁がかっ開いた目で見る。廉は呑気な様子で飴を噛み砕いていた。
「なんだ。お前らは反対なのか?」
心底不思議だといった顔の貴史に首を傾げられ、仁と亮は言葉に詰まる。別にこの城、いや、この国から出るということに反対なわけではないのだ。
仁は豊富な食材が、亮は質のいいベッドや家具を惜しいと思う気持ちもあるが、雪が出ていきたいと言うのならばそれに従わない理由などない。
「いや、別にそういう訳じゃないよ?」
「ただ、明日の夜っつーのは、少しキツくないか?」
貴史の疑問にはしっかりと否定を返しつつ、自分たちの考えも告げる二人。その返答に貴史はふむ、と一度考える素振りを見せてから、未だ何かを唱え続けている雪に声をかけた。
「雪、明日の夜はどうだ? 流石に厳しいか?」
「あ?」
じろり、と低い声と共に下から睨めつけられた貴史だったが、顔色も表情も変わらずすんっとしている。
「……そうだな。明日の夜か……。…………いいぜ、この城を恐怖のどん底に叩き落としてやろうじゃねぇか」
何かを考え込んでいた雪は顔を上げて四人の顔を見渡し、ニヤリと悪どい笑みを浮かべた。
「いやー、まさかこんなに上手くいくとはねー」
屋根の縁に腰掛けた亮がケラケラと笑う。彼らの視線の先には、深夜の3時だというのに明かりの消えない明らかに異常だとわかる状態の王城。
雪たちは非常にこじんまりとした今にも崩れそうなボロ小屋に身を潜めていた。辺りには悪臭が漂い、それを嫌った雪によって簡易的な浄化結界が張られている。
王城の裏側、王都の景観を損なわないようにと追いやられた人々の住むそこは、汚い空気の溜まった貧民街となっていた。
そこらで人が餓死し、病に倒れる。現代の平和な国で育った学生などには到底耐えられない光景を目の当たりにしても、彼らは平常だった。
同情心を抱くでもなく、悲愴感を持つでもなく、彼らはどこまでも彼らだった。この街に足を踏み入れた真っ先に浮かんだ言葉はただ一つ。
『臭ッ』
全員で鼻を摘み、この中で一番光属性の適性が高い雪に結界を張るようねだる始末だ。すぐそこに倒れる痩せほそった子供も、凶器を持った男たちに襲われる女性も気に留めず、だ。
この者たちに人の心はないのだろうか。ないのだろうな。
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