少女か、カブか、




 象徴として淡い空色の時計台が建てられている、山の麓にある大きな公園。

 遊具はなくとも、だだっ広い草原を悠々と歩いたり走ったり、自分たちで色々と持ち込んでは遊んだりと朝昼は老若男女問わず訪れるのだが、なぜか夜だけは誰も足を踏み入れなかった。

 ライトアップされた時計台はロマンチックな雰囲気を演出するのに格好の的にもかかわらず。である。

 駅から徒歩一時間半。バスも通らないので、観光客が行くとしたら不便は不便ではあるが、自転車は貸し出しているし朝昼には足を運ぶ者もいるし、何より地元民はそうではない。身近な場所である。夜になって急に治安が悪くなるわけでもない。



 ではなぜ地元民さえ夜には近づかないのか。

 地元民曰く。行く気が起こらない。のだそうだ。









 ポニーテールの少年は都人とひとといい、くせっけの少年を由枝ゆえという。


「竜巻だ。由枝」

「噴火だっての。都人」


 ハロウィンの時計台での噂を聞きつけた二人。

 ザッザッザっと勇ましい足音をアスファルトの道路に立てながら、草原へ、そして、時計台へと並んで速足で向かう。


「だから、ハロウィン特有の気象現象で発生した竜巻が道路に落ちているゴミを巻き上げて、ここにピンポイントに落としてくんだって」

「ちっげーだろ。ハロウィン特有の気象現象で発生した噴火が海中に落ちているゴミを飛び上がらせて、ピンポイントにここに落としてくんだっての」

「竜巻」

「噴火」

「竜巻」

「噴火」

「どっちでもないわよ莫迦ねえ」

「「んだこら」」


 二人して目を三角にして振り返った先。

 ポニーテール、涼し気な目元、淡い空の下地に小さな白いカーネーションがちりばめられた着物を身に包み、歯の高い闇夜の下駄を履く少女はなぜか、銀色に発光しており。

 笑う土偶の如く、目と口ができるように切り抜かれたカブがなぜか、少女の肩の上をふわりふわりと浮いていた。

 この摩訶不思議な少女とカブを目の当たりにした瞬間、二人の目は色めき立った。


「「仏様!」」


 都人は少女に視線を固定させて。

 由枝はカブに視線を固定させて。

 そう叫んだのであった。









(2021.10.30)


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