ネタバレのない設定紹介

48millionフォーティーエイトミリオン

 この国に存在する唯一にして最大の女子アイドルグループ。東京ミリオン、東海ミリオン、関西ミリオンなどの支部を国内各地に展開する中央集権組織となっている。

 この国では、新たに13歳を迎える学年の女子が全員このアイドルグループに加入し、22歳まで10年間アイドルを務めるという特異な社会制度が徹底されている。毎年100万人ほどの13歳女子が加入し、上が卒業していくので、常時1,000万人ほどのアイドルが在籍している計算になる。ただし、全アイドルに等しく課せられる義務活動は配信動画への出演と定例握手会への参加のみであり、それ以上の芸能活動(コンサートやメディア出演など)を行っているのは全アイドル人口の1パーセントほどにすぎない。

 歴史が伝えるところによると、数世紀前、サブカルチャー文化の中心地と呼ばれた秋葉原で産声を上げた一つのアイドルグループが、アイドル戦国時代と呼ばれる競争過渡期のなかで国内各地に支部を展開して巨大化していき、現在の48millionの前身となったと言われている。


【ドミトリー】

 国内各都市に設けられたアイドル居住地区。巨大な壁で外界と隔てられた内部は、教育や医療、ビジネスの拠点が集中する巨大都市になっており、アイドル以外にも多数の大人が働いている。なおドミトリー内では高校までが義務教育とされており、大学は行くも行かないも自由である。アイドル在籍中に大学に通う者もいれば、22歳を過ぎてアイドルを卒業してから大学に入る者もいる。

 未成年男子はドミトリー内に立ち入ることができず、同年代の女子(=アイドル)と接触する機会は定例握手会やコンサートなどのイベント時に限られている。こうしたイベントはドミトリーの外壁部に配置された専用エリアで行われる。


【オータム】

 48millionを運営する特定営利法人。21世紀の日本でいうところの芸能プロダクションにあたる存在だが、その活動内容は一事業体の規模を遥かに凌ぎ、この国の経済や文化の根幹を司る「社会の仕組みそのもの」となっている。


【スプリング】

 ドミトリー内の治安維持を司る特定営利法人。全域監視システムによってアイドルの恋愛や飲酒喫煙などの非行に目を光らせている。異性交遊など「オータム」の内規に違反する行為があった場合は、その程度に応じてアイドルに謹慎や脱退などの処分を下す。

 民間組織である「スプリング」が下す処分はもちろん国家による法執行とは異なるので、裁判の判決と区別するために横文字で「判決センテンス」と呼ばれている。

 なお、アイドルを途中脱退になった者に対する社会の反応は、21世紀の日本でたとえるなら、中学校を卒業していない人のような扱いである。人権が制限されるようなことは表向きないが、好奇や偏見や同情の目にさらされることはやむを得ない。


【人気投票】

 現役の全アイドル(積極的な芸能活動をしていない99パーセントの者も含む)を対象とする人気ランキング。13歳以上のアイドル以外の国民から毎日投票を受け付け、翌朝に順位を発表する。投票率は50パーセントほどと言われている。積極的な芸能活動でファン人気を競っているのは10万人ほどなので、上位を目指すなら実質的にはその中での争いということになる。

 人気投票1,000位以内に入る超人気アイドルともなれば、「オータム」からの給与は桁外れなものになり、アイドル卒業後の就職や結婚にも有利になる。また、卒業後も成年芸能人として活動したいなら、人気投票で上位に入っておくのが必須であることは言うまでもない。


【この国における恋愛と結婚】

 アイドルは恋愛禁止である。仮にするとしたらドミトリー内に働きに来る成人男性との恋愛ということになるが、発覚すれば当該アイドルは「オータム」の内規による謹慎や脱退の処分を下され、相手の男性も特定芸能人信用毀損罪で刑事処分の対象となる(たいていは軽微な罰金を支払って釈放されるのみ)。

  未成年の男子はドミトリー内に立ち入れないため、男子もまた同年代の女子から引き離された青春期を過ごすことになるが、アイドルを卒業してドミトリー外に戻っている成人女性との自由恋愛は一般的である。そうしたカップルがある一方、人気アイドルは卒業後にハイステータスな男性から熱烈な求婚を受けるので、この国では10歳程度の歳の差夫婦が女性年長・男性年長の両パターンとも多くみられる。


【この時代のIT技術】

 日常のほとんどすべてのことはAI任せにできる時代であるが、社会の重要な意思決定には必ず人間が携わるという建前が堅持されている。国会や地方議会の議決、裁判の判決などは、AIの合議体から提言を受け、人間の議員や裁判官がそれを認証するという仕組みをとっている。

 なお、前期/後期インターネット時代と呼ばれる21~22世紀の人々が生み出した様々なメディア文化は、脆弱な記録媒体しか存在しなかった当時の技術水準の問題により、この時代にはほとんど伝わっていない。


【携帯端末と卓上端末インターフェース

 21世紀の水準にたとえるなら、前者はスマホ、後者はパソコンにあたるものである。卓上端末がインターフェースと呼ばれるのは、全世界を覆う巨大なネットワークに個人がアクセスするためのインターフェースの役割を果たしているためである。


【この時代の交通システム】

 車は自動運転が基本であるが、21世紀の車とそう変わらない感覚で手動運転することも可能である。交通事故や交通違反はありえないので、運転免許という概念は数世紀前に失われている。

 地震大国であるこの国では、長距離の陸路移動は地震に強い大深度地下鉄道がメインとなっており、地上の鉄道は一部の例外を除いて撤廃されている。


東京第一首都ファーストキャピタル中京第二首都セカンドキャピタルほか】

 震災頻発期に国土が破壊し尽くされた後、各地域に再建された中枢都市。東京に第一、名古屋(中京)に第二、大阪に第三、福岡に第四の首都が置かれ、分散統治によって被災時のリスクを軽減している。

 なお、ネットワークで全世界が繋がり、物理的な輸送システムも高度に発達しているこの時代では、地域単位の方言はほとんど姿を消している。これは差別や抑圧があったということではなく、21世紀の日本人が江戸時代の言葉遣いで話さないのと同じことである。


【この時代の人名】

 戸籍上は漢字の名前も存在しているが、日常生活ではカナ表記で通すのが通例となっている。21世紀の終わりに成立した改正戸籍法第50条(当時の通称はキラキラネーム対策法)により、難読名や極端な当て字による命名は規制されており、新生児の名前は昔の地名や駅名から付けるケースが多いようである。

 「~子」や「~奈」のような、特定の一字を語尾に置く命名は、この時代の人々にとっては相当に古い時代の名前として受け止められる(「カワナ」「ハルナ」のように地名に由来する響きのものはその限りではない)。

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