願いと祈りの概念は死神に問う。1

 それから数日経ち。結局、亞名が受けているイジメは亞名自身が「問題ない」としつこく言ってもそうしか言わないので、他の人には見えないオレが何をしても意味がないから保留となった。ただひとつだけ約束をさせる。

「亞名はわからないって言うかもしれないけど、もし辛くなったり、逃げたかったらちゃんとオレか他の誰かに言ったり、逃げるのを優先しろよ」

「……わかった」

とまぁ、わかったしか言わないだろうとは思ったが。想像通りの反応で逆にわかりやすい。そうして亞名は今日も学校に行った。

「さてと」

オレはどうしようか。記憶は取り戻した。とするともう何かの目的がない。今までは一応外に出歩いてなにか手がかりがないかと探し回っていたが……。

亞名を見送った玄関に背を向け、考えているとガラッと玄関が開いた。

「ん? なんか忘れ物──」

でもしたかと振り返ると

「やっほ」

「うわっメルじゃん」

「うわってなんだよ、今日は普通に玄関から登場したじゃん!」

「いつものは自覚あったのか……」

「そりゃ君がいい反応くれるから」

「……まぁいいや。それで今度はなんの用だよ」

「君を連れてこいって言われたものでね」

「誰に」

「そりゃ上司かみさまにだよ」

「へぇーそれは大層なこっ……え? 神様?」

しばらく忘れていたメルの上司の存在を思い出し、聞き返す。

「そう」

「えっ、ていうか本当に実在してるのか? その神様ってのは……」

「今さら?」

「てっきりなんかメルが適当こいてたのかと」

「なんでアタシが適当言わなきゃいけないの」

「だっていつも色々雑だし……」

「とにかく、呼ばれたんだから行くしかないの! いいね!」

「めちゃくちゃ強引だな」

「行ったらきっとわかるよ。ほら行くよ」

と言ってメルはオレの袖を引っ張る。

「靴くらいちゃんと履かせろよ!」

いきなりすぎて文句を言ったが中途半端になってしまった。


 寺の外に出ると、目の前の景色が一部分歪んで裂けていた。裂け目は大きな暗い穴になっているようでとても不気味だった。

「なにこれ」

「天界に行くための門みたいなものだよ」

「人んちに勝手に開けんなよ」

「通ったら閉じるから大丈夫」

「それって……」

どういうことだ? と聞く前にメルに引っ張られる。

「ちょっ」

「早くしないとめんどくさいんだから、行くよー」

「はいはい」

オレ達はその穴の中に入る。中は暗い洞窟みたいなものだったが、側面は何かが蠢いていて気持ち悪さも感じた。

「あんまり見ないほうがいいよ」

「そういうものか」

オレは前だけを見ることにする。先には明るい光が見えた。

出口らしき所まで辿り着くと、明暗差でしばらく視界がチカチカしていたが慣れるとなんだか見覚えがあるような場所だった。

「ここって……」

「君とアタシが初めて会った場所。『狭間の空間』」

「あぁ、どおりで」

足元は浅く水が張り詰めていて他には何もない。どこまで行っても永遠に続くような、そんな場所。

「あれ、でも天界に行くって言ってなかったか?」

「結局、アタシ達はここまでしか来れないってことなんだと思う」

「思うって……」

「アタシもよく分かんないし」

ゴゴゴゴゴゴ

「!? なんだ? 地震か?」

急に地鳴りのような音がして辺りが上下に揺れ始めた。

「地震なわけないでしょ、此の世じゃないんだし」

メルはそう言うも、辺りの水はぴしゃぴしゃ震えながら波を打ち始める。

「………………」

「……止まっ、た?」

オレは辺りを見渡す。すると何か上の方から降りてきた。

「なんだ?」

「はぁ」

メルはため息をついている。

「?」

ソレはオレ達の何倍あるだろうか大きな人型をしていた。

「じゃーん! 降臨しました〜!」

「?」

「あれれ? 結構インパクト強めに登場したつもりだったんだけどな〜」

「えっと……」

「そこはもっとこう、わぁ! とかおぉ! とか素晴らしい! とか言うところでは?」

その大きな人が言っている意味があまりわからず、メルの方を向いた。メルは呆れたように頭を片手で抑えている。

「もーメルちゃーん? そんな態度取ってたらワタクシ悲しくなりますよー?」

「え、もしかして神、様?」

「はぁーい! はじめまして、カズトタナカ! ワタクシが何を隠そう神様でーす」

ソレは目の前にそびえ立って笑顔で両手を広げていた。

「でか……」

目の前に来られると大きさがよくわかる。高さは6メートルくらいあるだろうか。人の形をしているからか人間の大きさの固定概念が、余計にソレの大きさを感じるよう錯覚している。

「もーカズトくんまでそんなこと言って、レディ? に失礼ですよー」

(自分で疑問符をつけるのか)

確かに、外見はものすごく美人な女の人だった。薄い金髪に透けるような白い肌、服装はどこかの国の民族衣装にでも例えられるようなものを着ている。

「まぁいいです。さっそく本題に入りましょう」

「本題? えと、オレはなんで呼び出されたんですか?」

「そうそれそれ〜! それを今から伝えますよー」

真面目に話し始めたかと思えば、子供のような反応も見せる。不思議な感じだ。

「えっとー、カズトくん、貴方はもう死神でいる必要はなくなりました」

「えっ?」

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