エンシェント・ムーン

羽崎 利空

プロローグ

第1話

プロローグ





 ここはリザルク孤児院。管理する婦人と孤児達数十人が暮らしている。年頃になって連れてこられる子たちばかりで、毎夜毎夜泣きながら玄関の近くで丸まって寝ていた。迎えに来るはずがない親を待ちながら。


 今日は駄目でも明日には、いや、明後日かもしれないーー。


 そうしている間に孤児院(ハウス)での暮らしに順応していき、親を必要としなくなる日が遠からずくる。そして、同じ境遇の彼ら、彼女らとの家族としての絆が深くなる。

 今夜も少女が泣きながら、玄関の前までトボトボとした足取りで迎えを待つ姿があった。今夜は特に暗く、ホーホーと鳴く声が静寂の中飛び去っていく音がした。


「ふにゃ、ぁあー、ひん」


 玄関の向こう側で鳥ではない、弱々しい鳴き声がした。少女は涙が引っ込んでしまい、その場で首を傾げた。気の所為かと思ったが、弱々しく途切れ途切れに聞こえてくる声は赤子の声に思えた。

 そっと扉を開けると、かなり上等な絹の糸で出来た布でグルグルに丸められているが、ソレは微かに動いていた。


「ぁぁー…」


 丸まったソレがゆらゆら揺れると小さな泣き声がする。覗き込むと、まだ乾ききっていない血と皮脂で汚れている赤子が包まれていた。ギョっとした少女は、握っていた掛け布団を放り出して階段を降り、道の通りまで出て人通りを確認した。月が出ていない晩の為、辺りはいつもより薄暗く夜目は効かない。そして、人の気配は全くなかった。

 少女は赤子の所まで戻ると、急いで自分が放り出した掛け布団で更に包み込み、地下にいるハウスの責任者である婦人の元に駆けた。

 この子は死なしてはいけない。咄嗟にそう思ったと言う。








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