繋ぎ目
事案に関わる被疑者を特定するには情報収集。すべてを一致させるには、様々な協力が必要だ。中でも“御用聞き”の活動は、重宝している。
奉行所の会議室にて、茶太郎と葉之助の立ち合いで通報者の声と共に録音されていた“障り音”を、作蔵が再生機器に繋げたヘッドフォンで聴いていた。
「面白いのが聴けた。おまえに聴かせるには、葉之助の通力が必要だ。どうする、茶太郎」
「葉之助」
「御意。作蔵さん、手順のご説明をお願いします」
茶太郎と葉之助は目を合わせて頷き、作蔵へと振り向く。
「“障り音”を俺の中に入り込ませて音量を下げてやる。その“音”を葉之助、おまえの“念録の術”で録してくれ。あとはおまえが分かりきったことをすればいいさ」
作蔵は頸に手を添えて「ばきっ」と、関節を鳴らす。
「兄貴、今度こそ聞けますね」
「ああ。頼むよ、葉之助。任せたぞ、作蔵」
「おう。任されるぞ、茶太郎。と、いうことで、おっぱじめるぞ。葉之助」
作蔵はヘッドフォンを着け直す。
ーー術、念録……。
葉之助は通力発動の詠唱を口遊む。そして、作蔵の背中に手を押し当てる。
ーー源、音喝破。
同時に作蔵も通力発動の詠唱を口遊んだ。
「……。なんと」
作蔵の中の“音”を吸い上げる葉之助が、驚きが隠せない呟きをしたーー。
***
【天明】地区で発生した事案に於いて、真相に辿り着く為の執り行いは着々と進められた。
「皆、よく頑張ってくれてありがとう。今から被疑者御用に於いて、打ち合わせを始める。その前に其々で遂行して得られた結果の報告を述べて欲しい。先ずは、葉之助」
「はい。作蔵さんご協力での“障り音”を解読致したところ、被疑者のものと思われる情報が含まれていました」
「詳しい結果内容は、報告書に記載されているのだよね。次、門倉」
「万楽寺。被害者に付着していた、被疑者のだと思われる痕跡を調べたよ。だけどーー」
「……。なるほど。では、照斗」
「はいよ、だんな。あれ、ただの落とし物じゃなかったばいた。事案の発生瞬間が、くっきりと表れたと。だんな、
「さて、皆からの報告は言い尽くされたようなので、これから本題に入らせてもらうよ」
こうして奉行所の会議室での夜は更け、それから茶太郎を残してがらんと、なった。
「作蔵、私だ。……。そうか、貴様からの度重なる協力、心より感謝申し上げる。では、明日の日没時に事案の現場にて」
茶太郎は奉行所の固定電話を使用して、作蔵と明日の被疑者御用に向けての、打ち合わせをしたーー。
***
今宵は寒の戻りで身体に堪える。ここ数日は日中の気温が上昇していたのがあってか、通り道沿いの河川敷では菜の花が黄色く咲き誇っていた。しかし本日の最高気温は一桁でしかも小雪が舞っていた。
戻ると言えば【天明】地区の事案だ。野次馬が群がる中での現場検証、そんな状況であったにもかかわらず現れた目撃者はたった一人。因みに通報者は別人。被害者と被疑者の接点は明確になっていない、猟奇的な犯行。
目撃者、通報者。双方のどちらかが事案の第一発見者として見なされ、同時に容疑を掛けられる。そして、これもよく聞くことだ。
被疑者は犯行現場に留まっている、戻るは悪業を犯しての防衛的な露出行動。
どんなに言葉巧みで着飾るをしても、必ず剥がされる。
「こんな夜分遅くにお困りごとですか。よければ、ご相談に乗りますよ」
第一段階は、ふりをして近付く。
「え、ええ。実は、数日前に落し物をしましてね。ないと分かっても……。」
警戒されると思いきや、あっさりと応じられてしまう。
「探したかった、ですか」
「片っぽだけあったのはよかったのですが、考えたら眠れなくて此処に来たのです」
証拠を残していなかっただろうかと恐れたのだ。それにしてもよく喋る、こっちから聞く手間が省ける。
「実は私も探していたのです。ものはものでも、あるものをです」
「……。もの。そう、ものなの」
「例えると、猫かぶりですね。いいですか、猫かぶりですよ」
「猫、猫。しつこいわよっ」
第二段階である、誘導。何か思い当たりがあるらしく、感情が籠っての反応を示した。
「失礼、正しくは
第三段階。事案の被疑者であると確定させる為、畳み掛けるを始める。
ーーあんたは引っ掻くでは済まさない。あんたが言った通り、皮を剥ぐから……。
ついに尻尾を出した。丁度よく、月が蒼く照りだした。
「作蔵っ」
「おう、待ちくたびれるところだったぞ。茶太郎」
呼びに応じた“蓋閉め”が「かたん」と、一本歯下駄を鳴らせる。
時は深夜の刻。茶太郎と作蔵は、ひとつの“化け”に挑むーー。
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