自然体で居られる場所
シヨゥ
第1話
「君はなぜそんなに急ぐんだい?」
「動き続けることでしか価値を証明できないからだよ」
「価値を証明することってそんなに大事かな?」
「大事だよ。価値がなかったらここに居られないだろ?」
「ここに居たいの?」
「居たくは……正直な話、ないさ」
男は歩みを止めて友人と向き合うことにした。
「じゃあ価値を証明する意味はないのでは?」
「なんだい。君はぼくを揺さぶって楽しみたいのか?」
「そんな悪い趣味は持っていないよ。ただ、生き急いでいる友達に興味があるだけさ。それで居たくない場所、コミュニティで自分の価値を証明する意味って何だい?」
「それは暮らしのためだよ。暮らすためにぼくはここから離れられないのさ」
「暮らすためだったら他の場所でもいいのでは?」
「もし飛び出して、ほかの場所が見つからなかったらと考えると怖いのさ」
「それじゃあこのまま生き急いで体を壊すことに恐怖はないの?」
「それはあるさ」
「『ほかの場所が見つからなかったらという不安に対する恐怖』と『このまま生き急いで体を壊す恐怖』、どちらが怖い?」
「それは……後者だ」
「なら君は今すぐほかの場所に向かって旅立つべきだ。場所なんていくらでもある。その中にはきっと自然体の君を価値ある人間として迎えてくれる場所だってあるはずさ」
「そうかな?」
「そうだとも。こうして会話しているぼくは自然体の君をすごく気に入っている。君とぼくのいるこの場所は暮らすという目的にはそぐわないけれども、君を価値ある人間と認めているんだ。もうここに自然体の君を価値ある人間として迎え入れている場所がある。他にもまだまだあるはずさ」
「そうなのかな」
「そうだとも。もっと自分の人生を生きようじゃないか」
「そうだな。そうしよう」
男は踵を返す。
「一緒に歩いてくれるかい?」
「喜んで」
2人組が来た道を戻っていく。それは生き方を変える大きな一歩だった。
自然体で居られる場所 シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます