第58話 お前達の本分は何だ?
自分でも時々忘れているかもしれないが、私は学生だ。
勿論周りの同級生達も同じく学生だ。
しかしその本分を忘れているのかもしれない、お馬鹿達がいる。
「また来ましたわね……」
辺境のヘルベェル領主の娘、ベルフェリア=クシアラ伯爵令嬢がジロリと教室の戸口を睨み付けた。
流石、令嬢なのに魔獣退治に参加しているだけはある、ベルフェリアは鋭い眼力を放ちながらジワリジワリと魔力を滲ませて威圧……魔圧か?を放っている。
戸口に現れたのは……私の従兄弟のヘラヴェル帝国、ルナセイル殿下の婚約者のペリア=ノエルグ(元異世界人?)令嬢だ。
因みに……だけど私とジルファード殿下と婚約者のルミエラ、友人のペリエとベリフェリアも同じクラスだ。
そして私の従兄弟だから同じクラスが良いよね?とか、要らない親切心を学園長から頂いてしまった為に、ルナセイル殿下も私達と同じクラスだ。
という訳で、ルナセイルの婚約者のペリア=ノエルグ令嬢と聖女のサクライマホは隣のクラスから、頻繁にうちのクラスにやって来る。
そうして始まるマウント劇場……
第一ラウンド先攻はペリア=ノエルグ!
「ま~た聖女様はこちらにいらしてるのね?お暇なのかしら、あっそうそう!そういえばスタンビートの浄化に向われたそうですが、魔獣に傷一つ付けることも出来ずに逃げ帰ったと聞きましたが~?」
第一ラウンド後攻はサクライマホ!
「へぇぇ~さっきからギャンギャン煩く騒いでると思ったら、ルナセイル様に相手にされないから、荒れてんだ!」
あ~あ言っちゃった……第一ラウンドはサクライマホの勝ちかな?
そんなマウント劇場を散々ブチかました後は、何故か私に絡んで来るというのが最近の彼女達の定番だ。
そんな定番はいらないんだけどね~
言い合いを終えると示し合わせたかのように、すぅ~と私とベリフェリアの座っている机の前にやって来た、サクライマホとペリア=ノエルグ。
「そうそう、スタンビートが出た時にリジューナ様もいらっしゃったけど、役に立たなかったんですって?」
おい、中々に失礼だぞ?ペリア=ノエルグ!
「そうなんだよ~居るだけでさぁ、ヴェ……ヴィ?ベ……スワー殿下とダラダラ遊んでばっかでさぁ!」
ベ……ほにゃららじゃないって!ヴェスファード殿下な!外国人の名前って難しくって覚えにくいのはオバチャンも完全同意だけど、アンタはまだ若いんだからしっかり覚えておこうね。
それにさ、私が殿下と一緒にサボってたみたいな言い方は気に入らないね!
ムーンサルトしたり、〇蟲よ鎮まれ!とか言って口笛吹いて騒いでたのは、あの
ベリフェリアが「言い返さないの?」みたいな目で私を見てくるので、頷き返してから、ペリア=ノエルグに視線を向けた。
サクライマホは100歩譲って、我が国が召喚した一応賓客使いの聖女様だ。
だがしかし、ペリア=ノエルグ……お前は違う!
この世界に生まれて貴族令嬢として知識やマナーを学んでいるはずだ。それなのに周りへの挨拶はおろか、自国のルナセイルに寄り添う事もせず(今だってルナセイルに挨拶すらしていない)サクライマホとのマウントごっこに精を出している。
お前は今何者なんだ?やるべきことを思い出せ……と、叱りつけたい気持ちをグッと堪えてペリア=ノエルグに微笑んで見せた。
「ごきげんよう、ペリア=ノエルグ様。もうシュ・メリアンヌでの生活は慣れまして?ルナセイル殿下もご一緒とはいえ、慣れない他国でお困りの事があるのではないですか?同じ王子妃候補としてご相談に乗れることもあると思いますので是非、同じ王子妃候補同士、どうかご遠慮なさらずにお話になって下さいませ」
重要なことなので、お前は王子妃候補だ!を二度連発してあげた。
厳密に言うと私は妃候補ではない。既にヴェスファード殿下と正式な婚約関係にあるから、婚約者扱いになる。
そして現段階ではペリア=ノエルグは妃候補扱いのまま……らしい。
まあ、そりゃそうだよね……と思う。
私に対して小生意気な態度をとるルナセイル殿下は、あくまでヘラヴェル帝国の皇子殿下で私の従兄弟だ。他国の公爵令嬢に生意気言ってたって、私が問題無いと報告しているので、不問にされている。
それはあくまで私が問題無いと報告しているからだ。
悪いけど私はペリア=ノエルグが私にマウントを取って来ていることは、ヴェスファード殿下に報告しているよ?
ヴェスファード殿下を通して国王陛下に伝わり、そしてヘラヴェル帝国側にも遺憾の意を伝えているはずだ。
そしてルナセイル殿下にもソレが伝わっているはずだ。
腐っても皇族のルナセイル殿下は、マウントを取っている自国の令嬢に対して苦言を呈する立場だと思う。
私も「あんたが言わないとあの子つけ上がるよ」的なことを、ルナセイル殿下にやんわりと伝えたことがある。……が、ルナセイルは鼻で笑ってこう言った。
「何で俺が言わなきゃならん。子供じゃあるまいし」
呆気に取られたがよく考えてみればその通りだった。
子供じゃないんだから……ペリア=ノエルグはまだ14才、されどもう14才。貴族令嬢としての行儀作法や慣習、全て学んでいて当たり前なのだ。
だってそれが、王子妃候補に必要なことだもの。
だから……ペリア=ノエルグは妃候補止まりなのだ。現段階では妃候補だが問題が起こった時には、素早く妃候補から外されるだろう。
妃候補から外された令嬢って、今後の社交界で良くない立ち位置になりそうだけど……
ペリア=ノエルグも自分がモブだからって油断してるんじゃないかな?ヒロインみたいな危機的状況に陥ることなんて無いとか思ってたりする?
モブだってピンチに陥ることもあるって考えたこと無いのかな~いつ物語から消えていなくなっても構わないキャラだからこその『モブキャラ』なんだと思うんだけどね。
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