第10話 扇子殴打事件の真相

15年前に建国っていうと……ママンは当時14才くらいかな?


「私は留学という名目でヒルジアビデンス王国に来ていて……キールドラド王家の庇護下に入ったの。その時にマックス……お父様達と御引き合わせ頂いて婚約という運びになったのよ?」


なるほどねぇ~パパンとママンは完全なる政略結婚か……でも二人共、仲良いよね?


私がママンを見上げていると、ママンはアラサーだと思えないほどの可愛い笑顔を私に向けてきた。


妖精スマイルだ、眩しい……


「最初はね、こんな遠い国に輿入れだなんて絶対に嫌だと思って、マックスにも冷たく接していたの。ところがね、異世界から聖女が召喚されてね~あ、聖女ってわかるかしら?」


「聖女の召喚!?」


思わずオウム返しに聞き返してしまったけれど、ママンは微笑みを見せながら説明してくれた。


「この国……世界は聖女を召喚して魔素の浄化をして頂いているの。一度浄化されても時間が経てばまた魔素が溜まって、それが魔獣や魔物を産んで……人間が脅威に晒される。その為の聖女召喚なのだけど……意味は分かる?」


私が頷き返すと、ママンは一旦言葉を切ってから溜め息をついた。


「聖女は異世界の方でしょう?いきなり召喚して国の為に魔素を浄化してくれと頼まれて、承諾される方なんて少ないのよ。どうしてか分かる?」


「知らない世界の為に頑張れって言われても、頑張れない?」


私の回答にママンは大きく頷いた。


「ええ、それもあるわね。私だっていきなり知らない場所に連れて来られて訳も分からず浄化しろなんて言われたら、怖いし腹立たしいしで断固拒否してしまうかもね。それで……聖女教育というのかしら?その準備期間が設けられていて、聖女の後見人としてオーデンビリア家のマックスが学園での保護者という役目を受けたの」


なるほど~つまりパパンは国から命じられた聖女の指導相談役&お友達?という感じかな。


小説の説明ではマクシミリアンと菜花は運命的な出会いをしたとか、夢見がちな表現がされていたけど、何てこたぁないから見ればお上の命令だったわけだ。


つまり、機嫌よく聖女の仕事をしてもらう為に、パパンに聖女のご機嫌取りをお願いしていたという訳でしょ?


見目麗しい精霊パパンには適役だね、え?ゲスイ考えだって?


おばちゃんにゲスイ考えと損得勘定を、させたら右に出る者はいないんだよ。


「その時にマックスと初めてと言ってもいいくらいに、色々と話をしたのよ。それでマックスの性格とか考え方とか、趣味を知ることが出来たわ。今にして思えば、聖女教育の後見に選ばれていなかったらマックスと今の様な関係は築けなかったかもしれないわ。フフフ……それでね、異世界から来られたナノカ様って、変わった方だったそうなの。マックスから助けてくれと相談されて分かったのだけど、何て言うのかしら?そうねぇ……マックスの話を湾曲して捉えたり、話を聞き流して都合よく解釈したりとかが激しい方だったの」


うわぁ……そうですか。


小説の中で菜花視点で書き出されている話の内容は、菜花を愛でるイケメン達の甘い囁きや、菜花を手に入れる為に独占欲を曝け出して争っているイケメン達……という表現だったけど、実際は違ってた、と。


菜花の妄想と願望の歪んだ解釈で、勝手に菜花親衛隊?に入れられちゃった訳だ。


「そうだわ、こんなこともあったのよ。マグリアスがまだ13才の時だったわ。ナノカ様と二人きりになってしまって、迫られ……いえ、えっとぉ仲良くしたいわと詰め寄られたという感じね。おまけにマックスがマグリアスをとても嫌っていて、酷い悪口をマックスから聞かされたとナノカから聞かされたがそれは本当なのかと、マグリアスが泣きながら私に聞きに来たことがあったの」


「迫られ……悪口……」


ひえええっ!?ショタ攻略をしようとしていたのかぁ!?ママンがオロオロしながら言い直していたけど、笑い事じゃすまされないよ!


私が理解が出来なくて唖然としていると思ったのか、ママンは苦笑いを浮かべた。


「リジューナには難しかったわね。ナノカ様がマグリアスに仲良くしようと抱き付こうとしたのね。未婚の女性が男性に抱き付くなんてとっても破廉恥で絶対にいけないことよ」


ママンの説明よっ!そんな曖昧な説明で濁そうとするとは、まあはっきりとショタ暴行未遂事件だとは言えないけどね。


「マグリアスの敵討ちの為に、ナノカ様に直接抗議したりマックスに訴えたりしたわ。まあそれからもナノカ様は他の男性に纏わりついたりして、周りからは浮いた存在の方になりましたけど」


小説の一文にあった、扇子殴打事件はマグリアス叔父の貞操の危機を仕組んだ聖女への仕返しでしたか……


ママンは妖精みたいな見た目だけど、結構気が強いんだよね……パパンがふわ~んとしている代わりにママンがしっかりしているのが、今の私の両親なのだ。


それにしても、小説の内容と現実がえらく乖離してませんかね?ママンの口振りでは聖女様は相当な拗らせ女子みたいだし。


「その聖女は今は?」


そう……ずっと気になっていた前作の主人公の行方、今の段階で私の周りには彼女の影も形も無い状態なんだよね。


私が尋ねるとママンはそれはそれは深い息を吐いた後で、妖精フェイスなのに一瞬だけ般若顔になった。


怖えええっっ!!


「いい?お父様にはこの事は絶対に聞いてはいけないわよ?」


般若顔で近付かれて、恐怖のあまり何度も首を縦に振った。


「その後で、魔素の浄化も大分終わった頃にマックスは聖女から夜這いを……あっえっと、寝所でナノカ様から無理矢理抱き付かれたのよ」


ママン、慌てて言い直したけどはっきり聞こえましたよ!夜這いって!!高校生女子がなんてことしてるんだぁ!パパン大丈夫だったのぉ!?


「マックスは逃げ出して、その後は大騒ぎだったのよ。聖女は襲われた責任を取って婚姻を迫るし、事実無根だとマックスは激怒しちゃってね。あのマックスが怒るなんて相当よね」


温厚でいつもニコニコのパパンが、怒ってる顔なんて想像つかないや。


「先代の公爵、おじいちゃまが国王陛下に殴り込……直訴されて、マグリアスのこともあって聖女の後見を降りたの。寧ろ後見を降りるの遅すぎるくらいよね?」


おおぅ、おじいちゃまも優しいじいちゃんなのに、国王陛下の御前にカチコミに行ったんだね。


聖女……前作の主人公はろくでもねぇな。


「それから聖女は王宮の離れにお住まいだったと思うけど、暫くして行方不明になったのよ」


行方不明!?


「どうして?」


ママンはまた一瞬、般若顔になった後に低く唸るように呟いた。


「『ファラメント公国のローウエ殿下との愛を貫きます、捜さないで下さい』ていう書き置きがあったそうよ。ローウエ殿下は緊急帰国して身を隠したと聞いたわ。今は自国の女性とご婚姻されてるから、どうやら助かったみたいね」


ローウエ殿下、危なかったねぇぇ!!


「それでナノカ様に捜さないで下さいと言われたから、そのままにしているそうよ」


誰が捜すのヤメレと言ったのか分からないけど、大英断です!

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