第8話 二代目悪役令嬢
私は恐る恐る前作の『聖☆ジュシュリア~夢♪と希望★を抱き締めて~』の本を開いて中を見た。
愛♡も正義⚔……と同じで、最初のページはキャラクターイラストとあらすじが載っているみたいだ。
ん?わおっ……こんな小説のあらすじで自分の父親のフルネームが分かってしまったよ。普段は周りから「旦那様&マックス」や「父上&お父様」と「閣下&兄上」呼びしかされてないからさぁ~
キャラクター紹介ページのパパンと叔父様の文章をじっくりと読んでみた。
マクシミリアン=オーデンビリア(18)公爵家長男、学園の生徒会長で
マグリアス=オーデンビリア(13)マクシミリアンの義弟、不仲な異母兄と反目しその際、菜花と知り合い憎しみに染まった心を救ってもらった。
「えっ?」
嘘だーーー!?
だってパパンとマグリアス叔父ってめっちゃ仲良いじゃないかっ!
どこが不仲だよ?憎しみって、どういうこと?
まさか大人になって異母兄弟で奇跡的な歩み寄りを見せたのか?
暫く唖然としていたが、呆けている場合じゃない。続きを見ることにした。
パパンと叔父以外のキャラクターの紹介ページを見ると、他には留学中の隣国の王子、侯爵家の子息、学園の臨時教師(実は殺し屋)とかのメンバーが描かれている。
う~ん、パパンと叔父以外はまだ会ったことがない方々のようだ。殺し屋なんぞに会うなんて乳幼児の私には今のところ有り得ないことだけどね。
それにしても、前作ではマグリアス叔父はまさかのショタ枠だったのかな。しかも今作ではイケオジ枠……叔父の振り幅が激しい、二作連続出演?おめでとうだね。
気を取り直して、あらすじを読んでみた。
前作も聖女が異世界からやって来てるね。なるほど、16才の高校生ね。その聖女の後見人としてパパンの公爵家に住むことになるんだね……ふむふむ、前作は隣国の陰謀で王国が危険に晒される話がメインか。
なるほど、臨時教師の殺し屋さんは隣国からの差し金で、聖女の菜花が命を狙われるのか。
ざっとプロローグを読んでから、本編を読み進めている時にある一文を読んで、思わず叫んでしまった。
「んぎゃ!?」
『……フレデリカ=ヘラヴェルガ皇女は扇子を振り上げて菜花の頬をぶった。「いい加減になさいまし!」』
見間違いか?
もう一度文章を読み返した。
『……フレデリカ=ヘラヴェルガ皇女は扇子を振り上げて菜花の頬をぶった。「いい加減になさいまし!」』
ま、間違いないよこれっ!
情報が大渋滞だけど、フレデリカ=ヘラヴェルガってフレデリカママンのこと?しかも皇女ってママンって皇族なの?いや、パパンと結婚して元皇族?いやいや、気にするのはソコじゃない。扇子を振り上げて菜花の頬をぶった……という描写がありますよ?これってさ、まるでさ……
悪役令嬢の見せ場みたいな描写じゃないのぉぉぉ!?もしかして、フレデリカママンって元悪役令嬢なのぉ!?
表現がおかしいけれど、私ってば正当な二代目悪役令嬢なのぉ!?
はい……情報が
「はっ!?けんちゃく!」
そうだよっこんな時こそ『ウキウキペディ』の出番じゃないか!
「ふれれりか=はらべぇるら、けんちゃく!」
目の間に検索バーの画面が浮かびあ上がり、ピコピコと電子音が響いた。
『フレデリカ=ヘラヴェルガ』と検索バーに打ち出されて、ウキウキペディの検索内容が画面に映し出された。
ウキウキペディさん、仕事が早い!
【フレデリカ=ヘラヴェルガ第二皇女殿下。ヘラヴェルガ帝国の第二皇女。『聖☆ジュシュリア~夢♪と希望★を抱き締めて~』のマクシミリアンの婚約相手。続編の『愛♡も正義⚔……』ではマクシミリアン=オーデンビリアと結婚。一男二女に恵まれる。】
……情報、これだけ?
私は急いで夢♪と希望★の小説に目を落とした。また速読してしまって何か見落としているかもしれない。
マクシミリアンパパンの登場シーンとマグリアス叔父の登場シーン、主人公との絡みのシーン……
ゆっくりと読んでいて気が付いた。
当たり前なんだけど、小説の文章は主人公(書き手)からの一方的な視点だ。
マクシミリアンが菜花を見て照れている。マクシミリアンが菜花の言葉に嬉しそうに微笑んでいる。きっとマクシミリアンは菜花の気持ちを考えてくれているはず……
そうか、パパン視点からの話の描写が無いんだ。よくよく台詞を見てみると、パパンは常に女性に対する褒め言葉を多用しているし、更に良く読めば主人公を否定する台詞を言っていない。
今現在のパパンの性格を思い出して見ると、ママンに対してもずっと褒めたり、感謝の言葉をかけたり、二言目には愛しているよなどの、言葉を常に発している。
勿論、私や兄姉達も優しく接してくれるし、常に笑顔で穏やかなパパンだ。
そう……結論としてはパパンは若い頃から穏やかで優しい人なのだと思われる。だから当然、異世界人の菜花に対しても常に紳士的で優しく接していたのだろう。
それが主人公……異世界人の女子高生から見れば「自分に気があるように見える」ということもある。
この小説の視点から見れば主人公を正に慈しんでいるメインヒーローだけど、別の角度から見れば穏やかで女性に優しいパパンの対応は至極当たり前の貴族子息の対応だということになる。
もしかしてだけど、主人公が勘違いして婚約者のいるパパンに馴れ馴れしくした?
もう一度そのことを頭に入れて、フレデリカママンの登場シーンを読むことにした。
やっぱり……パパンの台詞はやんわりと否定な言葉だ。言葉の裏を読み取るのは難しいものだけど建前バリバリの言葉だった。
『「ナノカ、学園内で男子生徒に過度に触れてはいけないよ?君があらぬ噂の的になってしまうからね」マクシミリアンはそう言って菜花に顔を近付けて微笑んだ。噂ってもしかしてマクシミリアンは私がローウエとスエルドと仲良くしているのを妬いているの?そうだとしたら、嬉しいなんて~思っちゃうと菜花の心は弾んだ。すると、足音を響かせて近付いて来る女生徒がいる。振り返るとマクシミリアンの婚約者のフレデリカ皇女だった。また嫌味を言われるのか……と菜花は思った。フレデリカ=ヘラヴェルガ皇女は扇子を振り上げて菜花の頬をぶった。「いい加減になさいまし!」』
そうか……これだ!というか、パパンとママンサイドに立って物語を見ると全てがひっくり返る。
この異世界人の聖女、前作の菜花はこの世界では世間知らずの非常識な女の子だったのだ。
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