予知

そんな訳で、お姉ちゃんには巫女さんのお仕事は向かないって私は思っているんですけど。

ただ、見聞きできちゃうだけで何もできないので。

でもお姉ちゃんは、家から近いし割りがいいし、近くの定食屋の焼肉定食が美味しいということで、巫女さんのバイトを続けていました。



そんなお姉ちゃんがある朝、青ざめた顔で起きてきて。

なんかすごい怖い夢見たって、言うんですね。

昔からお姉ちゃんは夢で、未来的なことを見てしまうことがあったんですけど。

でも、そういう時のお姉ちゃんって、絶望的に語彙力がないんですね。

なので、何言っているか分からないので、対処できないことがほとんどなんです。

お姉ちゃん自身も、何を見たかはっきりとは分からない、というか。

思い出そうとするそばから忘れてしまうので、それを必死に思い出そうとしながらなんで、余計に分からないっていうか。

その時も、お姉ちゃんは思い出しながら、一生懸命夢で見たことを言葉とジェスチャーで表現してたんですけど。


「すっごい、絶望的」

「なんか、何もかも無くなる感じ」

「もう、無理って思って、思ったらなんか、もう無理ってなって」

「髪が、ワシャーってなって」

「私は、これはないって、悲しい気持ちになるって感じで」


って、テーブルに肘をガンッてしながら、一生懸命話してました。




でも、最後に




「肉がなくなる、絶える?」




って、ポソっと言ったんです。




いってもお姉ちゃんの夢って、当たるんです。

あの…内容が分かれば。




なんか、すごい怖いことが、もっと大きな範囲で。

日本とか世界とか、そういうレベルで起こるのかなって、少し怖くなったんです。

昔、お父さんから狂牛病の話を聞いて怖くなったこととかを思い出しちゃって。

でも、本当にそういう、なんかテレビとかでやるようなことになったら、どうしようもないじゃないですか。

心の中ではすごい怖かったんですけど、その日は、やめてよお姉ちゃんとしか言えなかったんです。

そこから2週間くらいして、ある日お姉ちゃんがバイトから帰ってきた時です。

夕食は外で済ませてくるって連絡があったんで、あれ?食べてきたにしては早いなって思ったんですけど、なんか玄関から上がってこないんですよ。

お姉ちゃん?って思ってお出迎えしに行ったら、ぼーっと立ってるんです。



真っ青な顔して。



髪もボサボサで。



玄関先に立ち尽くすお姉ちゃんが、ほとんど幽霊でした。



どうしたの?ってこわごわ声をかけたら





「定食屋、なくなってた」って、恨めしそうに言うんです。





お気に入りの定食屋が急に閉店してて、大好きな焼肉定食が食べられなかったってワナワナしてるんです。




あー、と。




「肉がなくなる、絶える」って、これの事だなって。




結局、何も食べられずに帰ってきてしょげてるので。

しょうがないから私が、お姉ちゃんに豚バラ肉の焼肉定食を作ってあげました。

エバラ焼き肉のたれで炒めただけの簡単なやつでしたけど。

そしたら、それを食べたお姉ちゃんが




「これだっ!」




って叫んでて。

その定食屋の焼肉定食の味だって、確信してたんです。





ってことはその定食屋の焼定って、エバラ味ってことですよね?





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