第7話 ホワイトハウス


【4日目 午後2時頃 国防総省からホワイトハウス】



 いまアリス達はペンタゴンからホワイトハウスへの経路上、国防総省の車でハイウエイに乗ってポトマック河を渡っているところだ。このまま直進すればホワイトハウスの右側に出る。ペンタゴンからホワイトハウスまでは道なりでも4kmくらいしかないからあっという間に着くみたい。


 ハイウエイを降りて車は何度か交差点を曲がって大きなサークル状の道路を進んでいく。



『ホワイトハウスの北側、北側玄関です』



 コリンズ海兵隊大将が念話で教えてくれるーー便利だ。




 車での移動中にコリンズ海兵隊大将、アンダーソン海兵隊上等兵の使徒二人には、とりあえず魔法「念話」「ステータス」「神託」を転写してある。相互の距離が40m以内なら「念話」で双方向通信できるしそれ以上離れれば「神託」で私からの一方通行だけど通信できる。例のペンダントを渡してあるから使徒の二人は自分自身から半径20m以内の範囲でで魔法が使えるのだ。


 魔法が使えると聞いてアンダーソン海兵隊上等兵は大興奮で声を上げることもできずに悶えていた。ふふふ、まだまだこんなものではありませんよ? 直ぐにでも強化カモメ以上の能力者にしてあげますからね? 安全に試し打ちが出来る場所でないとまずいと思うのでちょっと待ってもらいます……





 ホワイトハウスの前で私たちが乗っている車が停車する。車から降りてペンタゴン同様に例の隊列を組んで箱型の屋根のついている北玄関からホワイトハウスの中に入っていくーー廊下を進んで西ウイングへーー前方におじさん2人が立っている。あの人が大統領だね、テレビで見たことある。



「ミズ・コーディ。ホワイトハウスへようこそ!」


「ありがとうございます。アリス・コーディです、よろしく!」



大統領に促されて丸い円型のオーバルルームという大統領執務室に入った。




 あれ? コリンズ海兵隊大将とアンダーソン海兵隊上等兵が止められた……私だけってことですか?



「あの~コリンズ海兵隊大将とアンダーソン海兵隊上等兵は一緒に来て欲しいのです。私が最も信頼している方たちですので……」



 私の発言に対して会談セッティングの担当者の人が狼狽えてどうしたらいいか困っている。



「構いませんよ? お二人とも合衆国の軍人です、なんの問題もありません」



 大統領の一声があって問題なく私たち3人で部屋に入れるようだ。私は執務室中央の二人がけソファーに一人で、大統領さんは向かい側に一人がけソファーに座る。


 副大統領とか国防長官、国務長官、国土安全保障省長官、財務長官、エネルギー長官、国家情報長官。そして統合参謀本部議長。それと補佐官みたいな人達は周りの一人がけチェアーに各々座る。室内はギュウギュウ詰めです。



 私の使徒二人は私の後方にチェアーをあてがわれて座った。コリンズ海兵隊大将が知っている人物は念話で教えてもらえるので便利だ……







 ……大統領との会談が始まってから一時間ほど経ってショートブレイクになった。喋りまくったからお茶もあんまり飲めてない。一口ゴクリと喉を潤す。




 この一時間は異世界イースにどんな国があるか、どのような動物や魔物や魔獣、悪魔がいるのか。大陸の配置や海洋の様子、気候風物、人々の暮らしぶり。これらのことに触れるだけで一時間はあっという間に経ってしまった。


 どうせ地球からは異世界イースに行けないのだから概ね本当のことを教えておく。ただし「魔法」の詳細や「私が亜神(時空)である」こと、そして日本人だった私の正体は伏せる。身分証明や多少の便宜を図ってもらえるくらいに情報を制限する。無害で悪用出来ないような情報はリリースしても良いけどね。








 ショートブレイク後に大統領が語り出す。



「ええと、ミズ・コーディにいくつか確認したいことがあります」


「はい、どうぞ仰ってください?」


「ミズ・コーディのお話によると、異世界イースでは魔法が使えるけれど地球では使えない。しかしミズ・コーディが使う「亜空間ルーム」とこの「燭台」は使える。これらは魔法ではないということでしょうか?」



 なるほど、当然の疑問です。私でも聴きたくなりますね……しかし真面に説明しようとすると私が神であることに言及することになってしまう。だから、かなーりアバウトな説明になります。



「そのとおりです。それらは異世界イースでも私にしか扱えないし作れない特別なものです……このことが私が異世界イースにおいても特別の存在であり重要人物である理由ですね」


「なるほど、地球において扱えると言うことは我々にも扱うことができますか?」


「作り上げて形になったものは利用出来ますね、その燭台のように。「亜空間ルーム」は私が作ったこのアイテムがあればあなた方でも操作できます。お近づきの印にお一つ進呈しましょう。ただし燭台と同じで知り得る人を限定して拡散しないようにしてくださいね」




 右手をクルッと回して亜空間ルーム開口部を展開。中に手を突っ込んでスマホ型亜空間ルームコントローラーを一枚取り出してローテーブルの上に置く。漆黒の小ぶりなスマホ状の板である。



「異世界イースとは宇宙構造が違うため地球では魔法が使えないのですが、なぜか皆さんは魔力を持っていて魔力の操作自体はできるようです。慣れないから最初は難しいかもしれませんが操作できると思いますよ? 私が手伝いましょう」



 コントローラーを手に取って周りを見渡す。希望者がいなければアンダーソンさんにでもーー



「私が試してみましょう。ミズ・コーディお願いします」


『安全保障担当補佐官ですよ』コリンズ大将が教えてくれる。便利だ。



「では安全保障担当補佐官さん、お手数ですがこちらに」



 私も立ち上がって補佐官さんの手にコントローラーを渡して両手で包み込むようにして覆う。こんな超美少女に手を包み込まれるなんて滅多にありませんからね、しっかりと味わってください。



「では私が魔力を操作しますので感じ取ってくださいね、はいーー オープン! クローズ! オープン! クローズ! 

どうですか? 何か感じ取れましたか?」


「うーん。もう少しお願いします」


「はい、では続けますね。オープン!ーー」







「なかなか感じ取れませんか? おかしいですね? 魔力が動く感じありますからできると思うんですがー」


「ああ! わかりました! これですか、これなんですね! ちょっと自分でもやってみますね。オープン! 出来ました! クローズ! おお、閉じることもできます。素晴らしいですね私でも出来ますよ?」


「良かったです、一体どうなることかとドキドキしちゃいました。良かったですね、補佐官さん」




 出来るようになった補佐官さんにニッコリと微笑んで喜びを伝える。良かった。使えなかったら別の餌を準備しなければならないところだったよ……



「……サンプルは複数人あった方がいいでしょう、ミズ・コーディ、私も是非ー」


「国防長官、確認は十分です。ミズ・コーディ、このような貴重なものありがとうございます。それで確認したいことなんですが、もう一つ宜しいですか?」


「はい、大丈夫です」


「異世界イースと地球を行き来する方法はあるのでしょうか? 我々がイースを訪問して地球に帰るとかです」


「……この質問に対するお答えは難しいですね……答えはYesであり、No でもあります。異世界イースに居た私が今ここ地球にいるのだからYesですね、行き来は出来ます。

ただし何時でも、誰でも自由に行き来できるかと言うとNo なのです。申し訳ありませんがこれ以上の説明は出来ません。

いずれ説明しても良くなるかもしれませんが今はダメなのです。すいません」


「そうなのですか、残念です。ではおねだりするようで心苦しいのですけれど、我々の生活向上に役立つもの。例えばエネルギー問題、環境、安全保障、宇宙開発。ご提供できるもので何かありませんか?」


「そうですねーー何があるかなーーえーと。じゃこれなんてどうでしょうか」



 右手を掌を上にしてスッと差し出してコールする。




       ーー光あれーー




 部屋全体が強くて柔らかな光の波動に包まれる。私の差し出した掌の上に光が凝縮していって直径20cm長さが220cmほどの光る円柱が出現した。見た目は大きいけど重さはほぼゼロで片手で余裕です。



「永久に電磁エネルギーを発生し続けて破壊することもできない特殊なアイテムです。

調べてもらえば分かりますがこの円柱に導電性の物質をコイル状に巻き付ければノーコストで無限に電気エネルギーを取り出すことができます。永遠に作動する破壊不能な発電機ですね。

これも燭台や亜空間ルームコントローラー同様に魔力で操作できます。進呈しますので確かめてください」



 室内にいるメンバー全員の顔が驚きに固まる。そうでしょう、分かりますよその気持ち。これさえあればエネルギー問題は万事解決です。



「この特殊アイテムは作るのに私の力を少なからず消費しますので大量に作ることはできません。ご配慮お願いしますね?」



 皆さん声を上げることもできずにコクコクと頷いていらっしゃる。ちょっと効きすぎたかな?


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