幕間 セレside
「私、ルーブルのお嫁さんになるっ」
小さい時にそんなことを言った、言ったわよ。あの時はホントにそう思ったから。でも仕方ないじゃない……アンタよりも良い男を見つけたんだから。
クトファの町から離れている片田舎のブレベス村、大した娯楽もなく変わる事のない退屈な日々を過ごしているどこにでもあるような村。そこで私は近所の男の子であるルーブルと一緒に育った。
ルーブルは昔から色んな事を知っていた。他の男の子達みんなが冒険者ごっこやったり冒険者のおじさんから戦い方を見せてもらっているのに、暇さえあれば村中にある少ない本を借りてまで読んでいた。
そんな他の子とは毛色の違うルーブルを見てずっと一緒にいたいと思ってた。
「スキルってのは光・電・火・風・水・土・念の7つの『ぞくせい』を元にした技なんだ、どれになるかはスキルが発現するまでは分からないんだって!セレはどんな『ぞくせい』がいい?」
「へぇ~だったら私はルーブルと同じ『ぞくせい』がいいなぁ、そうすればずうっと一緒に居られるもの!」
スキルが発現するのは人によってまちまちだ。かなり幼いころから発現される人もいるし、逆にスキルを一生発現できない人もいる。理由は分からないようだけど。
そして村の同世代の中で一番早くスキルが発現したのは………私だった。それも光属性で弓矢の得意な私の才能と相性が抜群だ。これはもう冒険者になるしかない!私の未来は絶好調!
それに引き換えルーブルはスキルの発現が起こらず悶々としていた。私が励ましに彼の家に行くと疲れ切った様子のルーブルが出てきてこう言った。
「俺……属性が……念属性だった」
確かルーブルから教わった話だと念属性というのは攻撃にも防御にも使えないハズレスキルだとか。周りの大人達も同じ事を言ってた気がする。
「そう、あんまり気を落とさないでねルーブル」
そう言って足早に彼の家から出ていく私。ルーブルの落ち込んだ様子に居たたまれなくなったんじゃない。
嬉しかったんだ。いろんな知識を知っていていつもルーブルから教わっている私が初めてルーブルに勝った感じで。そんな顔を見られるのが、そんな残酷な心を知られるのが怖くてルーブルの元から去った。
ルーブルと会わなくなってからは冒険者になるための修行を始めた。とは言っても村にいる冒険者の人からノウハウを聞いて村外れの森で狩りの練習をするぐらいだけど。
そうして一年間が過ぎ、私は村を出て町に行くことにした。冒険者になる手続きをするギルドがクトファの町にしかないからだ。村のみんなが総出で見送りに来てくれた。その中にルーブルもいたけど私は目もくれなかった。
やっとこの変わり映えのしない村から出られる、ハズレ属性にしょぼくれている幼馴染の暗い顔を見なくて済む。
クトファの町で冒険者登録をした私に一人のカッコイイ青年が声を掛けてくる。
「俺たちのビーストハートに入らないか?」
町に初めて来た事もあって心細くなっていた私は二つ返事で引き受けた。これが私のビーストハート参入、いやエルカートとの出会いだった。
ビーストハートで私は大いに活躍した。エルカートは剣・ザラムは盾・フィスは杖とどれも近距離武器の使い手の中で私の中距離から遠距離までの弓矢は重宝された。誉めてくれるエルカート……エルと結ばれたのは自然な出来事だった。
しかしランクが上がると戦闘も今までのようには行かなくなる。クエスト中で連携が上手くいかず一進一退を繰り返す日々が続いていた。私を抱くエルの手も徐々に乱暴になってくる。
そんな時に見たのだ、休みの日に出ていったエルがギルドの受付嬢と抱き合っているのを。激昂して詰め寄りたいがエルに捨てられる事を考えると怖くて出来ない。斥候の私がパーティーを追い出されて一人になれば冒険者を続けていく事は出来ないからだ。文字通り泣き寝入りするしかなかった。
エルの方針によりこれまでの不調を取り戻すべく、隣町ザルクでのクエストを受ける事になった。所変われば品変わるというがクエストが上手くいき、とんとん拍子にBランクにまで昇る事が出来た。
酒場で打ち上げをしている最中にとある情報が耳に入ってきた。
「クトファの町によ、荷物持ちの新人が出たらしいんだよ戦術家ポーターって」
「けっ、所詮荷物持ちだろ?雑用しかできない文字通りお荷物じゃないか」
「俺もそう思ったんだが違うらしい……何でもポーションの受け渡しのために作戦や陣形にこだわるヤツで、意外と守りが固くなっていい戦果があげられるとか……いい歳こいた『ハィウォーン』の連中もそれでランクが昇格したって話だぞ?」
「マジかよ?陣形一つで結果が変わるんなら安いモンだぜ!何モンだそいつぁ!」
「なんでも『ぶれべす』って村から出てきて名前は・・・るー、ルービックじゃなくて、ルールブックでもなし…」
ブレベスの名前を聞いた私は咄嗟に話し込んでたおじさん達のテーブルに手をつく。
「おじさんっ!そのポーター、ルーブルって名前じゃない?」
「ぅ……何だよいきなり、ルーブル……そうだそんな名前だったな、お嬢さんの知り合いかい?」
やっぱりルーブルだった!でも何で荷物持ちなんかに?…そうか、ハズレ属性だからポーターになるしかなかったのね。これは急いで迎えに行かないと!
「ねぇエル、明日はこの町を引き上げてクトファに戻るんでしょ?だったら良い荷物持ちがいるらしいから雇ってくれない?」
「んぁ?そりゃいいけど……さっきのポーターの話か、まぁ俺らの雑用がなくなるってんならOKだ」
その後エルに頼み込んで一足先にクトファの町へ戻りルーブルを探す。しかしギルドや食堂にバーを手あたり次第探しても見つからない。でも間違いなくルーブルはこの町に来ている。後は根気よく探すだけだ。
しかしルーブルを見つけた時、隣には見たこともない女がいた。なんでも「ライオネス」とかっていうDランクパーティーのリーダーらしいけど……許せない、ルーブルは私のところに来るのよ!
「荷物持ちなら他にもいるだろう?またの機会に考えさせてくれ」
ルーブルはそういって女の手を引っ張っていった……私にはあんな事してくれなかったのに!
その後、町に戻ってきたエル達とクエストを再開するものの気分がイライラして集中できない。これもルーブルが私のトコに来なくて雑用が捌けないからだ!
エルと一緒にもう一度ルーブルに会いに行くもライオネスのBランク昇格の場に鉢合わせてしまう。その光景に苛立った私はついカッとなって言ってしまう。
「……小さい時は『ルーブルのお嫁さんになる』って言ってあげたのに!!」
その言葉を聞いて唖然としているルーブル、何?小さい頃の約束なんて忘れたの!?ちゃんと思い出して謝罪しなさいよ!そんな私を庇ってかエルが一言。
「こんな約束破るヤツなんざほっとけよセレ、さっさとクエスト選んでいくぞ…」
エルと一緒にギルドを後にする。しかしこの言葉を聞いて気づく、先に裏切ったのは自分の方ではないかと。でもルーブルはハズレ属性だしエルは電属性でパーティーリーダーだから比べるまでもないっていうか………考えれば考えるほど頭がグチャグチャになってくる!
「お前、何だってあんなお荷物野郎の事が気になるんだ?俺以外のヤツと浮気か?」
「違うわよ!誰があんなハズレ属性……戦闘の役にも立たない念属性なんか知らない!」
そう言ってエルの手を放して一人で町中に飛び込む。エルがクエストを受けてたけど私が抜けたところで困りはしないでしょ!
さんざん遊び回って夕方になる。この町にはめずらしく展望台があり町中を一望できるいい場所だ。久しぶりに登って眺めてみようかな?
丘のふもとの長い階段を上がろうとした時に気づく、ルーブルとライオネスの女が向かい合っている!?
私の中で憎悪の感情が燃え立つ。私がエルと結ばれるのは自然な事。でもルーブルは私のものだから他の女には渡さない……この女さえいなくなればルーブルは戻ってくるに違いない!
そう考えた私は矢を番えて弓を引き絞り……鬼力を集中させて女の背中を目掛けて矢を撃った!
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