第5話(1ヶ月半前)

 クトファの町の郊外にある共同墓地近くの野原にて。ゾンビの攻撃がウィルマを襲う。


「ぅわあぁっ!くっ、まだまだ!ボクはやれる!!」

「無理するな!ウィルマは下がれ!リィロ、追わなくていいから捌き切れるか?」

「はい!この程度の数なら造作もありません!…エァショーテル!」


 ショートヘアの戦士リィロが両手から風の刃を形成してゾンビを一体一体確実に切り刻んで行く。派手さは少ないが着実な実力を感じる。


「大将!ウィルマは麻痺毒にやられてる!どうすんだ!?」

「薬の前に傷口から毒を追い出してくれ、血止めとポーションはそれからだ!」

「あいよ!サーキュレイトブラッド!!」


 クセっ毛の回復士クローデュ、水属性のスキルは血の循環を良くする事ができるが、基本技の液体操作により直接の解毒が可能となっている。


「シル、準備は終わったか?」

「はぁい、それじゃいくのですぅ…ヒートサークルぅ!」


 ロングヘアの後衛シル、おっとりした性格に似合わず火属性のスキルにて敵を圧倒する。目の前に展開された炎の輪から怒涛の火流を作り出しゾンビ達を呑み込む。準備に時間がかかるのが難点か。


 その甲斐あって討伐対象が全滅した、というよりもここら一帯が焼け野原だ。ゾンビ達を墓場から誘き出しておいて良かった。


「お疲れだシル、相変わらず威力がえげつないというか…」

「えへへぇ、もっとほめてくれてもいいのですぅ」


「大将、こっちのねぎらいは無ぇのかい?」

「忘れてないよクローデュ、お陰さまでこっちの被害はほぼゼロ、怪我人知らずだ」

「よくわかってるじゃねーか!打ち上げは盛大にやろぅぜ!」


「あ、あの………」

「リィロは安定感ある戦い方をするから安心して任せられるよ」

「ぅ、嬉しいです!必要な数の魔石も取っておきましたから………」


「あ~ぁ、ボクだけ活躍できてないなぁ……」

 そしてボヤいているのがライオネスのリーダー、ご存知のウィルマ。土属性の持ち主でリーダーの中では珍しく率先して前衛で相手の攻撃を受け切る盾役だ。地面の土を操作して土塁にする「バリケィド」はモンスターの攻撃を半減させるスキルだ。


「腐るなよウィルマ……土属性の『バリケィド』でこっちの防御力は上がってるんだ、どうだ?まだ痺れているか?」

「ぅ、うん大丈夫!もう立てるから………よし、クエスト終了!みんな、町へ帰るよ!」

「「「おおぉーっ!!」」」


 以上がウィルマをリーダーとしたパーティー「ライオネス」。珍しく全員女性のみのメンバーで構成されている。



 あれから二週間、俺はライオネスの雇われ荷物持ちとして行動している。リーダーのウィルマに戦士リィロ、後衛シルに回復士クローデュ達はビーストハートとは違い武器を持たない。その代わりにスキルを武器として使用している。これは相当な鬼力量がないと出来ない技だ。


 しかしながらウィルマが言ったように彼女達には連携が足りない。今まではクエストの成果は一進一退でなかなか伸びず終いだったらしいが、俺の戦略で着実に実力を伸ばしていった。



「おめでとうございます!ライオネスはCランクからBランクに昇格です!!」

「「「おおおおおーすげぇえええええ!」」」


 ギルド内にて歓声が俺達を包む。短期間にてランクを2つも上げる事ができた。これでAランクも間近だ。


「ルーブルさん、私達あなたのお蔭でここまでのし上がる事ができました!うぅっ…」

「泣くな泣くな!おい大将、女泣かせた罪は大きいぜぇ?あはははは!!」

「もうルーブルさんはライオネスのいちいんなので、ほかのパーティーにはわたさないのですぅ」

「シルの言う通りだよ、ルーブルがいなきゃボク達はずっとDランクのままだった…ホントにありがとう!」

 荷物持ちで作戦指示しかしていないのに感謝されまくりで正直照れ臭い。しかしこんなに喜んでくれるのなら彼女達を更にサポートしていこう。


「いや、礼を言うのは俺の方だ……こんな俺をパーティーの一員と認めてくれてありがとう!正式メンバーの手続きを頼めるか、リーダー?」

「も、もちろんだよ!Bランク昇格よりルーブルがその気になってくれたのが嬉しいよ!じゃあさっそく」


 「にぎやかで楽しそうなことね?ルーブル!!」


 和気あいあいだった雰囲気をぶっ壊したのは……幼馴染のセレだった。後ろにはリーダーのエルカートがいるが、ザラムとフィスはいないようだ。


「私達をほっといて他の女と浮気してイチャイチャ見せつけてくれて…小さい時は『ルーブルのお嫁さんになる』って言ってあげたのに!!」


 何を言ってるんだコイツは。時間を巻き戻しても俺を殺したくて仕方がなかったクセに……まぁタイムスリップしてその記憶がないから言っても分からんだろうが。

 後ろにいたエルカートがセレを下がらせて俺の前に出る。


「こんな約束破るヤツなんざほっとけよセレ、さっさとクエスト選んでいくぞ……

おいルーブルとか言ったな?俺はエルカート、ビーストハートのリーダーだ。Bランクなんざすぐに追い抜いてやる、調子に乗ってるのも今のうちだぞ?」


 そういってセレを連れて出ていくエルカート。盛り上がっていたギルド内が一気に冷え込んでしまった。しかし俺にとってはもはや別パーティー、何も気にする必要はない。


「な、何という失礼な…Bランクのビーストハートがあんな礼儀知らず達だとは」

「なんだぁあの女?大将が自分について来ないって喚いてた割には、連れの男の腕に抱きついてたぞ?浮気者はどっちなんだ?」

「きぶんだださがりなのですぅ、ヒートサークルをおみまいしてやるのですぅ」

「それはダメだよシル!ねぇあの娘の話なんだけど」


「みんな、昔の知り合いが失礼した!お詫びに俺のオゴリでメシを食いに行くぞ?」

「そ、そうですね!あんな方々に構っていては時間の無駄です!」

「お、いいねぇさすがは大将だ!よっ、この太っ腹!」

「じゃあわたしはパフェケーキ10にんまえでぇ」

「シル、それは食べ過ぎだよ!……うん、ルーブルがそうするなら行こう!」


◇◇◇


 町のレストランで食事をした後リィロとクローデュ、シル達と別れる。俺の隣にはウィルマがいる。彼女のたっての希望にて2人で丘の展望台まで行く。


「ルーブル、話聞いていいかな?あの幼馴染『ルーブルのお嫁さんになる』って言ってたけど」

「ガキ時分の話だ、それにアイツの方がすでに約束破ってるようなモンさ。何せ俺には一言も言わずに故郷を出て冒険者やってたんだからな」


 そう……よくよく思い出すと故郷にてスキルが発現した時、セレは光属性で舞い上がり俺は念属性でしょぼくれてたっけ。いつも一緒だったアイツがいつの間にか俺と距離を取ったのもその辺からだったな。

 そんなアイツが俺よりもエルカートに惹かれるのも当然か。むしろガキの時の約束を後生大事に覚えてたのが恥ずかしいくらいだ。


「それじゃ君の属性とスキルが気に食わなくて君を置いて町に来てたの?そんなのひどいよ!」

「そう、だからアイツの話なんか気にすんなって」


「うん………それじゃあボクをもっと安心させてよ?……んっ」


 突然ウィルマが目を閉じて唇を突き出してきた?これってもしかするともしかして??こんな不意打ちありか??でもここでやらなきゃ男が廃る………覚悟を決めて


  ズシュッ!


「ぁ、あれ?これがキスの感覚??おかしいなぁ、背中が熱いけどだんだん立てなくなっ…」

「ぉ、おいウィルマ!」


 倒れこむ身体を支える。背中には矢が突き刺さっている…コイツはセレの使っていた矢だ!くそ、どこから撃ってきやがった!!探し出し……いや、手当てが先だ!


「ウィルマ!早くポーション飲め!血止めをするぞ!!」

「はぁはぁ…ボク立てないよ…どうして?」

「しゃべるな!治してやるから……くそ、血が止まらねぇ!そうだ、クローデュを呼んでくる!」


 すぐさま立ちあがろうとした俺の左手をウィルマが掴む。弱っているハズなのにかなり強い力で。


「も……もうダメ、みたい……それよ、り…ボクの手を握っ…ててほし、い…」


 彼女の手を握り返して両手で掴む。ちくしょう、俺の方に矢が当たっていればタイムスリップ出来たのに……何で俺を狙わなかったんだよ!視界がぼやけてきた、ウィルマの顔が見えないほどに。


「ぁ…ルーブルの手ぇあったかい……これ…で安心して……寝られ…るよ」


 握りしめている手が冷たくなってくる、ウィルマを失うのがこんなにツラいなんて……俺はウィルマを愛していたのか?

 しかし守れなかった、守りたかったのに!!


……「やり直したい、もう一度」


 五度、辺りが白く輝く中、俺の意識は途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る