Disc.1_I Dead; METROPOLISの悪夢
File:1-1_全知を患う少女=Laplace's demon Syndrome/
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。あなたはそう信じて疑わない。
*
物事は複雑に見えるも、因数を分解し収束すれば単純な式へと書き起こせる。
『オーケー、そのまま
システム・プログラム環境と回線状態、感度、地形、風向、空気抵抗、重力、武器の威力と射程距離に発射頻度、味方と敵の位置と動向、プレイヤー自身の心身のコンディションと癖ともいえる学習および思考パターン。すべては条件と制限の種類と組み合わせ、そして人の統計的行動心理に依存する。立ち回りと予測、視点の多様化と言えばそれまでだろう。
『よし、
「バレバレだから」
故に、
金属質の施設から顔を出し、砂埃と赤茶色の荒野へと足を踏み入れて右の突貫階段を昇れば最後、四時の方角から私の後頭部に一発かませる算段だったのだろう。技量が高くなければやろうとすら思わない
『っはは! 嘘だろ、後ろに目ん玉ついてるのか!?』
『噂通り、
『とんでもないモンスターが
偶発的に見えるも、そこには目に見えない細かな歯車が回っている。ただし、戦闘中のコミュニケーションをもってすれば状況を覆すレバーともなり得るが、私自身はそれをしない。敵味方の言わんとすることにもパターンがあるからだ。
時間に応じ、収縮する
『クソッ、回復の暇もない』
『割れねぇ畜生、なんでろくに当たんねぇんだよ!』
『あいつに物資を取らせるんじゃねぇぞ、いいな!』
昔の
『
『TASでもまだ慈悲があるぜ』
『
サブマシンガンをもって最後の一人を仕留めると、「You are the CHAMPION」の文字が目の前に表示される。役目を終えた銃を下ろすと、仮想空間からそれが消去した。
フルダイブ式FPSの一種、VoFこと「Vertex of Frontier」。総プレイ人口は全世界合わせて一億人前後と相当の人気だから続けてみたが、今のところ全勝の記録を更新し、シングルではレート的に世界上位十位以内にランクイン。今日は目をつけてきた世界二位の人とマッチできて勝利を収めた。
この界隈のトレンドにも
ゴーグル搭載のヘッドセットとグローブを外し、ベッドに投げ捨てる。明るい世界に反し、より複雑な
「……ふぅ」
枕元に置いてある箱のスイッチを押し、球状の果汁飲料をつまんでは口に放る。必需品のコーラとエナドリがこの場にないときの代用品だ。
照明をつけないまま、携帯端末を白い専用台に置き、拡張版ホログラムウィンドウを展開する。SNSのトレンドとチャットメール、通販サイトを同時に開いて目の前の空間に一列に並べる。一件の通知を確認した。
時折来る、遠方に住む妹――
だが、こちらの気持ちを裏切ったようにおはようのスタンプと、一言。
『今日いい天気だよ! せっかくだしどっか出かけてみたら?』
「……引きこもり前提かよ」
それに午後から雨が降る。返す気にもなれず、ホロウィンドウを消す。
一度ベッドに横たわるも、そのまま眠りにつく気も起きない。カーテン越しから差し込む紫外線を見てため息一つつけると、ベッドから重い腰を上げて机の上の錠剤タブレットへと手を伸ばした。
ぶかぶかのTシャツを脱ぎ、スポーティなショーツ一枚だけになる。そろそろジャージかスウェットくらいは着ようかと思いつつも外出用に着替える。空調が自動で切れる音を最後に部屋を出ては廊下を歩く。だが、そこで待ち伏せでもしていたかのように叔母が声をかけてくる。
「お、おはよう、
「……」
「ど、どこかにいくの?」
「別に」
臆病な言葉の裏に見える
叔母は勿論、ダイニングでホログラムテレビを見ている叔父にもひと目も合わせることなく、さっさと家を出た。
「幸恵、もういいだろう」と諦めたような叔父の声。
「いやよ! あなたもなんであの子を引き取ったりなんかしたのよ」
「仕方ないだろう、金まで積まれたんじゃ。それに
「だからといってあたしたちが負担になる必要ないじゃない! 近所の目もあるし、さっさと職を見つけて出てってほしいのに――」
防音性の高い玄関口が閉じ切っても尚、エレベーターに乗るまでの間に聞こえてくるふたりの
一階に着いた時、奇異そうな視線を向ける九〇三号室の主婦と入れ違う。
やっぱりそのまま寝ていればよかった。
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