掌編小説・『ホームビデオ』

夢美瑠瑠

掌編小説・『ホームビデオ』

(これは、今日の「ホームビデオ記念の日」にアメブロに投稿したものです)



 掌編小説・『ホームビデオ』


 

 通販サイトで格安のビデオカメラを買った。

 中古品で、聞いたことない外国のメーカーの製品だ。「TP放出の最後の一台です。現在は製造が停止されていて入手困難です。」と、但し書きがあって、稀覯な製品らしいが、値段は諭吉さん一枚くらいだった。

 掘り出し物かもしれず、三日後に届いた、DVDプレーヤー付きのそれの外観を矯めつ眇めつしてみたが、平凡なデザインの比較的小さめのありきたりなカメラだ。

 電源を入れて、点灯した緑色のランプの下のファインダーを覗いてみる。

 と、きれいな女の声がナレーションを始めた。

「異世界転生装置・VRーQーMULTI22をお買い上げいただきありがとうございます。このカメラを覗いた瞬間からあなたも転生者!もう引き返すことはできません。その代わりあなたはこれから異世界での波乱万丈・ハラハラドキドキの冒険者ライフを体験できるのです!設定はランダムチョイスですが、えりすぐりのシナリオで、美女がふんだんに登場する、というのがわが社のウリであります!冒険の面白さも折り紙つきです!さあ、素晴らしい異世界の夢幻曼陀羅をとくと御堪能あれ!」


なんだって!? ふとカメラから目を離すとそこは見渡す限りの大平原。おれは羽搏いている銀色のドラゴンにまたがっていた!腰には光り輝く宝剣と古めかしい彫刻飾りのついた大盾を装備している。そうか!あのビデオカメラは…!そうしてTPというのはタイムパトロールのことだったのだ!」


…こうしておれの魔王討伐のための長い冒険の旅の道程が始まりを告げたのだった。


<了>

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掌編小説・『ホームビデオ』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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