第17話 姫 萌ゆ
最近、佐藤さんの登校が早い。通勤ラッシュを避けて登校する私は、1番のことが多いのだけど、今朝、教室はすでに開いており、案の定佐藤さんが机に突っ伏して寝ていた。
男子のくせに羨ましいまつ毛の長さが目を
「おはよう」
と佐藤さんの低音ボイスが聞こえた。えっ私?まだ他いないよね?幻聴?挙動不審になりながら、振り向くと起きた佐藤さんが伸びをしていた。
「お、おはよう?」
私だよね?と目で問うと
佐藤さんが
「何で疑問系?他いないでしょ。」
と破顔した。その声と笑顔はもうドストライクで勝手に顔が赤くなるのを止められない。
「朝、いつも早いんだね。」
と佐藤さんが言うから、
「佐藤さんも」
と返すと
「いや、俺は蔵瀬さんに渡すものがあって」
佐藤さんは机の中から手提げの可愛い紙袋を出すとニョキッと立ち上がり
「はいっ」
と渡してくれた。
「えっ?」
「お返し。今頃だけど、バレンタインの。同じだから、俺も」
頭に佐藤さんの言葉が染み込むまで
「言った。俺はえらい。ちゃんと言った。」
と自分の胸をさすりながら褒め出す佐藤さんがいた。
「あの、同じってあの」
他クラスの生徒達が登校し始めた声が2人きりのタイムリミットを告げている。
「これからもよろしくお願いします。」
佐藤さんが頭を下げた。
「お願いします?」
反射的にまた疑問系になりながら頭を思わずさげた。
「亘一が朝から蔵瀬さんをいじめてる」
と大崎さんが、荷物を投げ出し駆け寄ってきて飛びかかろうとし、佐藤さんはヒョイとかわしながら、
「あとでね。」
と私に声をかけてくれた。
いや、いろいろ整理しよう。私。こそっと袋を開くと中に最近話題のコンビニスイーツのガトーショコラが入っていた。それも早朝入荷すぐに完売する限定ものハート型。
『良かったらSNS追加して下さい。連絡待ってます。佐藤亘一』
メッセージが書かれたメモが入っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます