クリスマスカード

第1話

 クリスマス。それは多くの人が浮足立つ日。高校生の柊にとってもそれは例外ではなかった。

 12月15日、クリスマスまであと10日となった。期末試験も終わり、完全に緩み切っている教室内は、○○が××とと付き合っただの、今年は恋人と過ごしたいだの、浮かれた言葉が飛び交っていた。

 そんな中、柊はあることに頭を悩ませていた。

「なあ、柊。お前はクリスマス誰と過ごすんだよ」

後ろの席の陽人がニヤニヤしながらしながら聞いてくる。

「はあ?残念ながら一緒にいてくれるような女の子はいませんー。お前はいいよな、

美香ちゃんがいるじゃないかっ」

「まあな」

陽人の顔が余計に緩む。彼は一か月前に、隣のクラスの谷岡美香に告白して付き合い始めたのだ。

「でもお前、今年も渡すんだろ?笹木さんにクリスマスカード」

「んー、どうだろな。最近は全然話してないし」

「えー、言うて同じクラスだろ。今時珍しいぞ、幼馴染の女子が高校のクラスまで一緒なんて。お前はもっとこの状況をありがたく思わなきゃならんっ」

 同じクラスの笹木聖ささきひじりは柊とは家が隣同士で、柊の幼馴染だ。親同士が仲が良く、幼稚園の頃からクリスマスは合同でパーティーをするのが習わしだ。柊と聖はそこで、毎年クリスマスカードを交換していた。

 しかし、高校に入ってからお互い勉強やら部活やらで忙しくなって、話す機会がめっきり減ってしまった。

 また、柊が聖とうまく話せないのにはもう一つの理由があった。

 中学生までの柊にとって、聖は幼馴染で家族も同然のような存在だった。しかし、高校生になってからそれは大きく揺らいだ。小学校からのメンバーがほぼそのまま一緒になる中学と違って、様々な地域から生徒が集まる高校では、柊には聖が「幼馴染」ではなく、ただ一人の「女子高校生」として映ったのだ。

 それは柊に大きな衝撃を与えた。今まですごく身近に感じていた存在が、急に遠くに行ってしまって、今さら手を伸ばしても届かないように感じたのだ。

 それからというもの、柊は変に意識してしまって聖と今までのようには話せなくなってしまったのだ。

 それでもまだ、去年はよかった。

 去年のクリスマスイヴ、柊は例年通りクリスマスカードを聖に渡したのだ(実際は聖の家のポスト入れただけだが)。しかしクリスマスパーティーは、友達と過ごすとか適当な理由をつけてすっぽかした。

 聖から柊へのカードはクリスマス当日、終業式が終わったあと、廊下で渡された。その時、柊は聖の顔をまっすぐ見ることができなかった。

 パーティーに参加しなかった柊に対して、聖は少しだけ怒っていた。そのうえ、柊がこっちを全く見ないので、聖はカードを押し付けるように渡してその場を去ってしまった。あの時から、聖とはほとんど自分からは話していない。

 だからこそ、柊は今年のクリスマスにカードを渡して、聖に謝りたいと思っていた。

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