地下墓地の同胞

 ソリで死体を運ぶ最中さなか


「どうしよう……」


「ど、どうかしたの?」


 神妙な面持おももちのスノウ。


「いや、自由になっても行くとこ無いなァって」


 彼は先程まで魔術的にも縛られた奴隷だったが、呪術刻印を外す事で解放した。


「か、家族居ないの?」


「みーんな戦争で死んじまったからなァ」


 大抵、奴隷は貧民街で攫われた子供か戦災孤児。彼も例に漏れず、戦争を経験してる。


「わ、わたしのとこ来る?」


 行く当てが無いなら、ふところの深い同胞達は受け入れてくれるだろう。


「……軽率に男を家に上げるのはどうかと思うぞ」


「……そ、そういう意味じゃない!」


 中々出さない大声。

 慣れない事をする私を見て、彼は笑った。


「ハハ、いや。すまない、でも家族とかは大丈夫なのか?」


「ど、同胞と地下墓地カタコンベに住んでる。は、墓守と違ってわたし達は寛容だ」


 実際、死霊術士達の殆どは何かしら脛に傷持つ身。純然な死霊術士はわたしくらいだ。だから全てを受け入れる。捨て子だろうが、犯罪者だろうが。


「確かに、墓守の爺さんら性悪が多かったもんな~」


 逆に、教会の組織の一つである墓守たちはかなり排他的だ。指定住居区以外の死体は埋めてさえもらえない。そう言った死体をわたし達が回収して居るのだが。


「つ、ついた」


 地下墓地への入り口。

 雪に隠れた頭くらいの岩を踏むと、地面にある大きな石版が動き出す。


「おォ~」


 中に入る。


「すげえ、暖けえな」


 スノウはボロボロ外套を脱ぎ、ボサついた髪をかき上げ顔が見える。焦げ茶色の髪、薄く緑がかった瞳。まだ髭も生えていない年齢である事が分かる。肌はしもやけで赤くなっているのが不憫でならない。


「う……あつい」


 灰色じみた外套のフードを取り、脱ぐ。人間の子供らしい彼に対して、私は銀色の髪、血の様に赤い瞳。真っ白な肌に、長い耳。いわゆるエルフと言われる種族。


「え、美人じゃん。昔聞いた妖精みたい」


 失礼と捉えても良いが、彼の年齢が大体分かった今では無邪気で可愛らしい。


「そ、そんな良い物じゃないよ」


「おーい、ネメ。帰ったのかい?」


 奥の方から、複数人がくる。白い熊のような獣人の男と女、小人系種族の男。


「う、うん」


「あれ、そいつは?」


 姿を見せた同胞達がスノウを指さす。


「うっす、スノウっていいます。さっきまで墓守の奴隷だったけどネメが助けてくれました!」


 わたしが説明するでも無く説明してくれる。とりあえず頷いておく。


「おー、墓守にこき使われてたのか。大変だったなぁ」


 疑うでも無く直ぐ受け入れるのは同胞達の凄いとこだと思う。小人の男は彼のスコップに興味を示して、


「これは墓守のかい?」


 などと会話が弾んでいた。


「ネメさん、まさかこんな若いの捕まえてくるとは」


「や、やめて」


 獣人兄弟に茶化される。


「え、ネメって……」


 スノウが怪訝な顔をする。


「あれ、知らなかったの? ネメさん、私達の中で一番年長よ」


 黙っておいて欲しかった。


「何歳なの?」


 直球なスノウ。


「……に、二百七十三歳」


 嘘、ごまかしは苦手。



「……可愛いからよくないですか?」


「オメエさん、話がわかるな」


 小人の男と、更に仲良くなっていた。







 

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