人類の終末と兄妹の過ごし方
スカイレイク
西暦3xxx年
第三次世界大戦において人類は反物質を武器として使い、対抗手段する勢力は遺伝子改造をした兵士を大量に戦場に投入していた。
それがもたらしたのは当然人類の激減であり、現在の地球において人類は旧時代の失われた技術を修繕こそできないながらもそれを利用することで食いつないでいた。
減りすぎた人類は一億人を切り、地球中に溢れかえっていた繁栄の世紀は過去のものになりつつある。
それでもありがたいことに旧世代が堅牢で強固な魔法とも呼べる機械を大量に残していてくれたおかげで人類は少しずつではあるが生存を続けていた。
「お兄ちゃん! 朝ご飯ですよ! まーた日記を付けてたんですか? 懲りませんねえ……」
「リリーか、今行くよ」
俺たちは一応これでも兄妹である。前世代においては名前に漢字やカタカナがどうとか意味があったらしいが、人類という種の保存を目的にしてからどこの国籍などと言うことに意味は無かった。ただ生きている人間と生きていた人間の二種類に分けられあらゆることは人間至上主義となっている。
「悪い悪い、ちょっと筆が乗ってな」
「はぁ……まあいいですけどね。暖めますよ?」
「ああ、そうしようか」
魔法の箱の中に数秒くらい、食材を放り込むと全自動で料理にしてくれる。それを温めるのも自由自在でこれは在りし日の人類に感謝できることだった。
「やっぱ便利だな」
「そうですね。昔の人たちに感謝しないと」
人間は働くのをやめている。大半のことは機械でできるし、それが壊れる様子は全く無かった。誰一人として次世代のことなど考えていないが、世代を重ねることが最重要課題※になっている。技術の開発などとうの昔に皆やめてしまった。
「お兄ちゃん、今日の予定は?」
「無いな、いつものことだろう? というかこのあたりに生きている人間がそもそも少ないんだから誰かと会えるのはミーティングだけだって知ってるだろ?」
人類は数を減らしたが、密集して住み出すと仲間意識や、はみ出しもの、そう言った面倒なものと関わることになると歴史で学んでいた。だから俺たちには日本列島の大きな土地が与えられ、転送機で外部とコミュニケーションを取るために集合する時以外は誰とも会わない、この妹を除いて。
「それもそうですね……ところでお兄ちゃん、妹にいい加減手を出したらどうです?」
「お前なあ……いやまあ確かに昔みたいな扱いはないけどさあ……」
兄妹間でも結婚は立派に認められている。人類が減ってから数を増やすためには多くのことが許可された。近親関係など絶滅が目の前に垂れ下がっている人類からすれば知ったことではなかった。そして人類は男女一組で生活することが習わしになっている。
まあようするにそういうことだった。
俺だってリリーのことは嫌いじゃない。それでも俺は人類が減ったからとそんななりふり構わない姿勢が好きではなかった。
「お兄ちゃんは頭が固いですねえ……前時代的ですよ?」
「それは人類が栄えていた時代のようだって意味か」
「まさか! 頭が固いこの地球を滅茶苦茶にした世代みたいな考え方って事ですよ」
大戦終結直後はある程度それ以前の価値観を持っていた人が残っていた。今ではすっかり見る影もない連中だった。
「ちなみに私は洗脳ツールを持ってます」
「え……?」
「お兄ちゃんの考えをねじ曲げ私と一緒になってくれる方法も有るって事ですよ」
「嘘……だろ?」
楽しそうにリリーは微笑んでから頷いた。
「ご想像にお任せします。現在の人類が種の保存を最重要課題※にしていることをお忘れ無く」
倫理観……そんな言葉が消えてから久しい。人を殺してはいけない理由は人類の数が減るからで、ただの人類の数の増減に影響することは避けるだけであり、決して倫理的にマズいだろうなどと言うことでは無い。
「現在の人間の数は?」
よく聞くことだった。数が減っていれば良くないことで数が増えていればめでたいことだった。
「この地域だとざっと300ちょいプラスってとこですかね……」
「なるほど、なら配給もご祝儀レートになるかな」
食料は配給制だが実際のところ食料は無制限にある。昔は食べられなかった材木のようなセルロースも食べられるように変性させられるようになって人類は一気に増えた。そこから石油を元に食料を作る技術ができて食料革命が起きた。その結果人類が大災を被るほどに増えすぎた。
その教訓から食料は死ぬことや奪い合うことのない程度に調整され配給されている。ちなみに植物は大量に生き残ったので食料の原材料に不自由することはない。
それでも人間を増やす意欲を持たせるため数が増えれば多少のボーナスがつく、減れば困窮するほどではないが少しだけ減量される、集団で目的意識を持たせるためだ。人口増加のためなら手段を選ぶことのない人間達の知恵だった。
「お兄ちゃんだってシステムは知ってるんでしょう? 決定権は私にあるんですよ?」
夫婦というかもはやそんな概念もなくなって久しいが男女は一組でペアを組まされる。クジを引いて当たりの方が好きなパートナーを選べるというシステムだが、このリリーは何を思ったのか兄の俺を選択してきた。だからこうして十五歳を迎え成人しても兄妹で暮らしているというわけだ。
要するに俺の妹はくじ運があるということだ。
「だったらもっと強引な方法だってあるだろうに……随分と奥ゆかしいことだな」
この世界において上下関係というものが絶対視されている。本気でリリーが俺を望んでいるのならいくらでも好きなようにできたはずだ。
「そこは雰囲気ってものの大事さを分かっていただけませんかねえ……」
リリーはあきれかえったように言った。なんだかんだでロマンチックなことにこだわる子どもだった。二人とも前世紀においては成人していない歳だったが現在ではもう十分に生きていたと言える年齢になっている。
「それはともかく配給をもらいにいきましょうか、もちろん一緒にですよ?」
「そうだな、今回はそれなりの量がもらえるだろうしな」
そう合意を得て俺たちは配給所へと向かったのだった。
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