【コラボ作品】竜クロ&マリオネ&白銀イベントコラボ
結月 花
ハロウィン🎃パニック(ハロウィンコラボ)
第1話 出会い
こちらの作品は、MACK様と眞城白歌様が描かれたイラストを元に書いております。
各作者様の近況ノートにイラストが掲載されておりますので、こちらをご覧になった後にお読みください。
★MACK様の近況ノートより
https://kakuyomu.jp/users/cyocorune/news/16816700428494311579
★眞城白歌様の近況ノートより
https://kakuyomu.jp/users/Hatori/news/16816700428501656016
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──ここは、どこだ?
気がつくと、セスはどこかの町にいた。視界に映るのは、赤、緑、黄色と色とりどりの屋根をした建物群。レンガ造りの道に並ぶように建っている家々は可愛らしいカントリー調だ。なぜかどの家の前にも怖い顔をした巨大なカボチャが置いてあり、中に火が灯っているのか、黒い穴から光が漏れてその顔をくっきりと浮かび上がらせていた。
何とはなしに空を仰ぎ見て、セスは驚きに目を見張った。天の色は鮮やかなオレンジ色。美しい夕焼けの色ではなく、まるでペンキをぶちまけたように濃淡の無い、均一なオレンジ色。まるで絵本の中の世界みたいな空を見て、セスは首を傾げた。
「セス?」
聞きなれた声が耳を穿ち、彼は飛び上がった。途端に意識が覚醒する。あわてて振り向くと、セスから数メートル程離れた場所でアルテーシアが地面にペタリと座り、両手を胸の前で握りしめながらこちらを見ていた。
「ルシア!!」
慌てて彼女のもとへ駆け寄る。いつも優しい光をたたえているブルーグレイの瞳は怯えたように揺れていて、セスは思わずその華奢な体を抱き締めた。
「ルシア、大丈夫? 怪我はない?」
「ええ……セスこそ、無事で良かったです……でもここはどこなのかしら。さっきまで一緒にケーキを食べていたのに」
アルテーシアの言葉でセスの記憶が甦る。そうだ。無事に思いを告げて恋人同士になった二人はエルデ・ラオに新しくできたスイーツ屋で仲良くかぼちゃのケーキに舌鼓を打っていたはずだ。それがいつ、なぜこんな所に飛ばされたのか皆目検討がつかない。震えるアルテーシアの肩をギュッと抱く。幸い腰に佩いている剣はこの世界にも持ってこれていた。大丈夫、ルシア。何が来ても俺が守ってあげるから。そう言い聞かせるように優しく彼女の背中をさすった後、二人は歩きだした。
レンガ造りの道を当て所もなく歩き続ける。両脇に等間隔で並ぶ街灯と、たくさんのかぼちゃ。かぼちゃ。かぼちゃ。辺りはしんと静まっており、コウモリの羽ばたきしか聞こえない。
「セス……ここはどこなのかしら」
「わからない。でも、ルシア。君は俺が守るから……大丈夫だよ」
そう言ってアルテーシアの手を軽く握ると、彼女の頬が微かに紅潮する。おずおずと握り返してくる小さな手を感じながら心の中で決意を新たにした瞬間、何かを感じてセスは立ち止まった。
「セス……?」
「しっ! ルシア、ちょっと黙ってて」
セスの言葉に、アルテーシアがキュッと口を結ぶ。微かだが、誰かからの視線を感じた。獲物を狙うような、殺気のこもった鋭い視線。右手で剣の柄を握り、左手でアルテーシアを庇うように一歩前に進み出る。
「誰だ! 姿を現せ!」
家と家の間の細い路地に向かって大声をあげる。間違いない。一瞬だったが、そこから確かに視線を感じた。ぐっと顎をひいて剣を抜こうとしたその瞬間、一陣の風と共に黒いものが眼前に現れた。
漆黒の毛並み、強靭な四肢、鋭い瞳と口端から覗く鋭利な牙──今まで見たこともないような巨大な黒狼が、鋭い牙をむき出しにしながら二人を睨み付けていた。
「なっ……! 狼!?」
黒狼は金色の目を獰猛に光らせながら低く唸る。威嚇の姿勢を見せる黒狼を前に、セスは剣を抜いた。背後で怯えているであろうルシアの気配を感じながら剣を構える。鋭い切っ先が光り、黒狼の体に緊張が走ったのがわかった。黒狼が今にも飛びかからんと前身を低くしたその時だった。
「グレイル、待って」
落ち着いた、しかし凛とした声が響いた。次の瞬間には、建物の影から飛び出た女性が黒狼に駆け寄る。セス達よりも年上の、小柄な女性だ。ゆるやかに弧を描く銀髪がふわりと揺れる。しかし、その髪から生えているのは二つの獣耳だった。そして柳腰の脇から生えているのはふさふさとした銀色の尻尾。
「獣人……!?」
剣を下げ、女性を見る。彼の出身である輝帝国にも、現在住まいを構えるエルデ・ラオにも獣人はいない。白龍のような神々の一人なのだろうか。だが、見るからに力を持たなそうなか弱い女性だった。
「レティ、下がっていろ。ここは危ない」
「いいえ。まだ子供と言ってもいい年齢の子達よ。多分……敵ではないはず」
レティと呼ばれた女性が黒狼をなだめるように首にすがりつく。その金色の目に宿るのは恐怖の色。彼らも自分達を怖がっているのかもしれない──そう思った途端、セスは少しだけ警戒を緩めた。剣をしまい、一歩だけ歩み寄る。
「俺は輝帝国のセステュ・クリスタル。もし良ければ君達の名前を聞いてもいいかな」
「……レティリエよ。彼はグレイル」
レティリエと名乗った女性が黒狼を指差す。次の瞬間には、黒狼は男性の姿になった。ツンツンした黒髪と精悍な顔立ち。大柄で筋肉質な体は、いかにも武闘派という出で立ちだ。彼らは、人と狼の二つの姿を持つ種族らしい。二人は恋人同士なのか、レティリエがグレイルの服の裾をそっと摘まむと、彼がその手をぎゅっと握る。素手で勝負をすれば敵わなそうな相手だが、愛する者を守ろうとする姿勢に、セスは男として同じものを感じた。一歩前へ進み出でて、右手を差し出す。グレイルもそれに気づいて腕を伸ばそうとした時だった。
「きゃーーーーー! いやーーーー!何これーーー!!」
「落ち着いてフィーネ! 大丈夫だから!」
女の子の悲鳴とそれをなだめる男の子の声。次の瞬間には、建物の間の路地から二人の男女が転がり出てきた。男の子の方は金茶の髪に青空のように澄んだ瞳。女の子は黒髪に金色の猫目。一瞬、女の子が二人かと思ったが、男の子が着ているのが緑色の軍服だった為にセスはその認識を改めた。
「きゃーーーー! 何この人達! 獣人!? 怖い!!」
黒髪の女の子が、獣耳と尻尾が生えている男女を指差して再び悲鳴をあげる。男の子が必死に女の子をなだめるが、女の子はきゃーきゃーと叫びながら目をぐるぐるとさせていた。
「あの……私達は怪しい者ではないわ。大丈夫よ。良かったら、少しだけお話しない?」
レティリエが進み出でて女の子に声をかける。その優しい声音に落ち着きを取り戻したのか、女の子がピタッと動きをとめ、男の子の後ろに隠れる。女の子をなだめていた可愛らしい男の子がレティリエを見て、ペコリと頭を下げた。
「すみません、騒がしくて……。申し遅れました。僕はラザフォード国のカート・サージアントと言います。こちらはフィーネ。僕の……婚約者です」
そう言って男の子──カートはポッと顔を赤らめる。なんだかそうしていると本当に女の子みたいだ。カートの礼儀正しい振る舞いを見て、フィーネと呼ばれた女の子もあわてて頭を下げる。
「そういえば……どうして慌てていたの? 誰か怖い人でもいたのかしら?」
レティリエが声をかけると、カートがふるふると首を振る。
「いえ、その……お恥ずかしいんですけど、フィーネがあちらの家の前に置いてあったかぼちゃに腰かけたら……急に笑い声がして驚いたんです。中を見たらただの笑い袋が入っているだけでした。でもフィーネがパニックになってしまって……」
「だって怖かったんだもん! 急にしゃべるから!」
「うんうん、フィーネ、わかってるから。大丈夫」
ムスッと頬を膨らませるフィーネをカートがなだめる。話していくうちに、彼らの人となりがなんとなくだがわかってきた。だが、ここはどこなのか、なぜ急にこの世界に連れてこられたのかはわからない。セスと手を繋いでいたアルテーシアが小首をかしげる。
「でも、ラザフォードなんていう国は聞いたことがないわ。伝承にも伝わっていないし……あなた達と私達が住んでいる世界は違うのかしら」
「僕も輝帝国という国も、エルデ・ラオという国も初めて聞きました。それに、僕達の世界には獣人はいません」
吟遊詩人だというアルテーシアがいくつかの伝承をあげながら小首を傾げると、カートもそれに答える。まるで違う世界から来た三組の男女。不可思議な事態に揃って戸惑っていると、突如バタバタと凄まじい羽音がしてコウモリがオレンジ色の空に無数の黒い影となって飛び立った。驚いて空を見る三組の前に、ふわりと黒いものが現れる。人間の赤子くらいの大きさの、黒い塊。その黒いものは、ふよふよと空中を漂い、突如バッと左右に大きく広がった。
「えっ……! かぼちゃ?」
そこにいたのは、黒いマントを広げる……かぼちゃ頭の生き物。マントを羽織ったかぼちゃ頭の生き物は、フヨフヨと空中を漂いながらケケケと笑った。
「トリック・オア・トリート! ハロウィンタウンへようこそ、迷子の子羊ちゃん」
かぼちゃ頭が口を開いた。と言っても、かぼちゃにぽっかり空いた穴から声が聞こえる、という感じだが。三人の中で一番戦闘に長けているグレイルが即座にレティリエの前に出て鋭い眼光で睨み付ける。
「お前は誰だ! 何が目的だ?」
「ケケケ。お前、初対面で失礼なやつだな。オレはハロウィンタウンの住人、ジャックオランタンさ。オレがお前達をこの町へ連れてきた。ケケケ、お前達にはたくさん働いてもらうぞ」
「働く……? 一体何を言っているんだ?」
グレイルが困惑の声をあげる。だが、ジャックオランタンはそれを無視してくるりと空中で一回転をした。
「ここはハロウィンタウン。様々な怪異が住む場所。そして人々の悲鳴が彼らの糧になる場所。お前達には、今からここでより多くの人々の悲鳴を集めてもらうぞ~! たくさんの悲鳴をあげさせたやつらから、元の世界に戻ってよし!」
「はい……? どういうことなんだ?」
ジャックオランタンの突拍子もない言葉にセスが困惑の声をあげる。セスの後ろにいたアルテーシアがそっと歩みより、セスに耳打ちをする。
「多分……私達がここの人々を怖がらせることが、この世界に住む怪異達の助けになるということらしいわ」
「おっ! お嬢ちゃん大正解だ! 百点をあげよう、ケケケ」
ジャックオランタンがフヨ~とアルテーシアの周りを飛ぶ。カートの背中にわかりやすく隠れていたフィーネがハッとした顔をしてひょこっとカートの背中から顔を出す。
「待って! 先にたくさん悲鳴をあげさせた人達から帰っていいってどういうこと? それをやらないと帰れないってわけ!?」
「おっこちらのお嬢ちゃんも大正解~いいね、話が早くて助かるよ」
「えーーーーそんなの聞いてない!」
フィーネが子猫のように目をつり上げてフシャーと威嚇する。そんなフィーネの背中を、カートが優しく撫でてあげる。
「フィーネ、僕がいるから大丈夫。一緒にもとの世界へ戻ろう」
そう言ってフィーネの両手を握り、王子さまのような顔で微笑む。フィーネの顔がキューっと真っ赤になり、彼女はうつむいてこくりと首を縦に振った。
「そいじゃ決まりだな! したら俺についてこいよ。色々説明してやるから」
そう言ってジャックオランタンはレンガ造りの道をフヨフヨと進んでいく。三組の男女は慌てて彼の後を追った。
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